【南の大迷宮】(2)
南歴310年 【三ノ月】。
ここは【南の大迷宮】の15階層です。半年前にも同じようなコメントをしたような……
階層主のいるこの階層はいわゆる炭鉱型。人の手に拠るような宮殿型と自然にできたような洞窟型の中間形態です。実際には、人の手でもなく自然によるものでもなく、【迷宮】がこうした形態にしたんですけどね。(再掲)
復習ですが、この階層は、魔獣の湧く小部屋が多数あって、魔獣と戦いやすい、少なくとも不意打ちを受けづらいことから、多くの探索者が、魔石を稼ぎ自分の技術を磨く~レベリングのため、結構、この階層を巡回します。
「知ってのとおり、伯爵家にはいろいろ恩義があるんだよ。俺が推薦するんだから、しっかり仕事をしてやってくれ。」
なぜか【ダルトーム】の【協会】から、僕に依頼がありました。
すみません、活動場所を【南の大迷宮】に移しましたが、探索者としての籍はダルトーム地方にありますし、協会長の力で事情を詮索されないからこそ、楽しく迷宮に潜っていられるのですが。
厳密には、師匠である【オールラウンダー】アーチボルトからの依頼です。
依頼というか、強制命令のような。
あんた、伯爵家に恩義があるんじゃなくて、弱みを握られているんだろう……
さて、依頼内容については、姫様(エミリ卿)のレベリングのお付き合いで、魔獣を索敵するお仕事です。
今月は、姫様も結構時間が取れるということで、しっかり修業をしておくことになったそう。
本当に脳筋な一族なんだろうなあ。
どうでもいいのですが、伯爵家の嫡子は、同名の子爵家の籍を持っており、卿をつけるのが礼儀だそうですが、まあ、騎士ウォードさんも了承のうえ、「姫様」と呼ばせてもらっています。
「本当に、リー君の索敵はすごいね。」
姫様はにこにこしながら、僕を労ってくれます。
特に自分の出自を説明している訳ではなく、師匠も当家の揉め事めいたことを寄親の伯爵家には伝えたくないことから、単なる探索者として、姫様やウォードさんとお話しています。
ですが、本来は寄親たる伯爵家の嫡子ですからね。
万一ばれたときに失礼のないようにしておかないと。
「へへん。僕は初級の魔術しか使えないけれど、空気の流れや湿り気と、床や壁の振動はしっかり捉えることができますからね。」(失礼じゃないんです、フレンドリーといって!)
「リー君がいると、本当に魔獣狩りが捗るよ。しかも、迷宮の中で魔石を付けていたら、俺よりも強いかもな。俺って一体……」
騎士ウォードが一人でツッコミ、一人で落ち込んでいました。
「いや、迷宮の中で、騎士様と探索者を比較しても、全然意味ないんじゃないでしょうか。」
「リー君、いってくれるな。俺もそこそこ腕が立つから姫様の護衛役(肉壁)をやっているが、魔石装備の取り回しは敵わないよ。というか、リー君は11歳にして、一流の探索者だからなあ。」
【ダルトームの迷宮】からの付き合いなだけあって、姫様とも、騎士ウォードとも、随分仲良くなりました。
前世?から考えると、はるかに年下のはずなんですが、随分と精神が肉体に引っ張られているのか、お姉さんとお兄さんみたいな感覚でもいます。
ワーランド家? あれは兄でも弟でもないよ。全く。
ともかく、ここ暫く、姫様と騎士ウォードと僕の3人パーティで、【南の大迷宮】の15階層付近を巡回しているのです。