『迷宮学』(14)
「一番、間違いがないのは、【王の矛】たるダルトーム騎士団が、【サリウムの迷宮】の50階層に一定期間……【魔獣暴走】の兆候が納まるまで、常駐して階層主を周回征伐することなのですが、それは【サリウム】が頑なに拒んでいます。」
「ちなみに、フォルマッテ先生……ニコルさん、ダルトームの先輩方というには烏滸がましいのですが、|御屋形様(ダルトーム辺境伯)やグレイン宰相の見立てはどんな感じなの?」
「辺境伯のお考えなんて、私などに分かるわけないじゃないですか。それを聞いてくるのは、それこそ分団長のお仕事……いえ、余計に話が混乱するだけですから、リードさんはここでおとなしくしていてください。私が【リード邑】に行ける時間が減ってしまいます……
【王家】も【ダルトーム】も、いかに【サリウム】の政情が混迷を極めていたとしても、これ以上の【魔獣暴走】は、控えめに云って、絶対起こさせたくない、と考えておられると思います。」
単なる勢力争いなら、【サリウム】で【魔獣暴走】が起きて、【サリウム】が弱体化すれば良い……くらいに考える輩もいそうですけどね。
僕の独り言が聞こえたのか、ジェシカさんとエーベルさんが、一瞬、身を固くしてしまいました。
ちょっと無神経な発言でしたね、反省です。
「皆さん、【ソロム】での混乱を目の当たりにしていますからね。」
僕とニコルさんは、それこそ、【ソロムの魔獣暴走】の際、もっとも【災厄】多頭大蛇の前に立ち続けていました。だからこそ、少し失礼な点があっても、【ソロム】の所感については、多めにみてもらえるんでしょうね。