50階層・【サリウムの迷宮】(3)
「……やはり、豚鬼の巡回具合が少しおかしい気がしますね。この感じ、リード君はどう思いますか。」
「探索者の活動が下火だといっても、20階層まではしっかり探索が行われているものと思っていたのですが。思ったより魔獣の気配が強い気がします。」
「【ソロムの魔獣暴走】後、どの【探索者協会】も【迷宮】への潜入頻度を高めているから、そこそこの魔石は確保されていたはず。実際に【サリウム探索者協会】分の魔石は相当増加していたし。
今も、サリウム伯爵家から探索者協会に対して、【サリウムの迷宮】での活動縮小や活動自粛の要請が出ていたけれど、探索者協会は聞き入れてないでしょう。結構、探索者も入ってきているはずなんだけれど。」
「案外、【サリウム騎士団】が地上の出入口も閉鎖しているとか?」
「まあ、今は伯爵家と協会とで揉み合っている状況……小競り合いしている状況でしょう。さすがに閉鎖まですると、伯爵家も【サリウムの迷宮】の管理体制を外部から疑われるでしょうから。」
「迷宮からの出入りを監視だけではなく物理的に制限しはじめたってことは、サリウム伯爵家も、ベント卿やメイレル派の反撃が怖いんだろうね。」
「……政治向きの話は俺には分かりませんからね。」
「そりゃ、正直いって僕も興味ないよ。」
先程、豚鬼と小鬼の4匹の群れを発見し、一旦、洞窟の行き止まりに向けてこの群れを誘導し、行き止まり地点で4匹の脇を駆け抜けて、この4匹の魔獣から離脱したところでした。
とりあえず、できるだけ魔獣と回避する方法で進んでいます。ちなみに行き止まりまで誘導したのは、魔獣の群れから離脱した際、離脱先の別の群れに接敵して、挟撃されることのないよう危機回避しているためです。
本来なら、しかもラウル先生の見立てが事実なら……いや、状況からすると、低位探索者の浅層階の巡回だけでもいいので、積極的に魔獣退治を進めないといけない状況なのですが……本当は、【探索者協会】に活動縮小を求めるなんで、愚策にも程があるのですが。