(メイド)レイラ・アンデライト(1)
南歴310年【三ノ月】
私の名前は、レイラ・アンデライト。騎士爵家の次女です。
いよいよ婚期を迎えた16歳です。
リード様が旅立たれました。
【南の国】の王立学園は貴族家の令息令嬢が通う4年制の学園です。
ワーランド家は子爵位と領を持つ家柄で、普通ならば何の不都合もなくリード様は王立学園に通うこととなる立場でしょう。奥様とリード様のお母さまの関係が良くないからとか、領の財政状況がやや悪化しているから、程度のことでは「学園に入学しない」ということにはならないのですが、奥様はずっとリード様の入学を反対されていたようです。
そのためか、リード様は王都において執事もメイドもなく、寮暮らしになるようです。
「いやいやレイラ。嫡子ではあるまいし、次男三男だったら、付き添いなしで寮暮らしなんて、よくあることさ。」
……「よくあること」と「一般的なこと」は意味合いが異なっているんですけどね。
実際、三男のパール様が入学されるときは、王都に在住されるための別邸を確保し、家人も派遣されることになるのだと思います。
少し腹立たしくもあるのですが、私もそろそろ未来の夫探しに本気にならないといけない時期ですし(現在、選考作業中)、いずれにせよ同行できないのは、寂しいことなのです。
リード様もお優しくて、いつも領都土産を買ってきてくれて、とても居心地の良い職場でしたのに。どうせなら私を嫁に貰ってくれれば……いやいや、リード様の気が変わっちゃうと、本当に行き遅れになってしまいますわ。
リード様も入学後は貴族としての勢力争いに巻き込まれていくことになります。
本人は財政状況が傾きつつある子爵家の次男坊に声をかける人なんていないよ、って申されますが。
少なくとも、リード様自身が貴族として、寄親であるダルトーム伯爵家の嫡子である姫様には、今後にそなえて、しっかり顔を覚えてもらわないと。家内騒動で揉めにもめ返すなど、いざというときに備えておくことは有意義なのだと思います。
「見かけたことはあるけど、別に覚えてもらわなくていいよ。学年も違うし、学校も広いし、関わることなんてないんじゃないかなあ。」
「まあ、私は学園に行ったこともないので。でも、リード様はお披露目会とかにも招かれたことないのに、どこで姫様をみかけたんです?」
「ええと、迷宮の中……」
おそらく伯爵家一の騎士をつれて迷宮に潜る姫様に、迷宮の中ですれ違うリード様は、齢13(にそろそろなる年)にして、探索者として自立した活動をされている=家の事はもうどうでもいい、のだなあと改めて感じたのでした。