『迷宮学』(4)
「話を戻しますね。なぜ、私の感想などを申したかといえば、その方がリード卿の『実感』に馴染むのではないか、と考えたからです。
武断派の貴族家の方々もそうだと思います。
迷宮と人間社会が相互依存しているとするのであれば、人間の関与が少なくなった迷宮は、その在り様を変えざるを得なくなる……大変顕著な例でいえば、魔獣暴走の危険性の高まり、でしょう。
交易の発展により、魔石の産出と調達は、辺境地域の【迷宮】で行われるようになりました。辺境地域が安い価格で魔石を買いたたかれる一方、中央地域は交易で得た収益でこの世を謳歌してきました。
【ソロムの迷宮】は大規模な魔獣暴走が発生しました。それを正面から制圧できたからこそ、その膨大なエネルギーは魔石という形で回収できました。
では、制圧できなかったらどうなったのですか。
その時は、その膨大なエネルギーは地上を破壊するエネルギーとなっていました。魔獣は魔素を枯渇するまで破壊の限りを尽くすのですから。」
「そうですね、だからこそ、僕も深層に拠点を整備するプロジェクトを進めているのですから。」
二コラさん、ジェシカさん、エーベル嬢の視線が少し冷たいです。どうにも、僕が強調した部分に対して異論があるような雰囲気です。ええ、雰囲気に過ぎませんが。
「ただ、迷宮学的にみて、魔獣暴走の発生の予兆をどう捉えるかは、未だ不明です。私達は経験則として魔獣を間引きしないと魔獣暴走が発生するという認識ですが、今の理屈だと、迷宮で発生する魔素と、人間が魔石として確保する魔素のバランスがどうなのかということになります。
もっというと、『人間が魔石として確保する魔素』というのは、ようは『全世界の人間が使う魔力の量』という要素に連関します。」
「え、ラウル先生、フォルマッテ先生。『全世界の人間が使う魔力の量』なんて誰も計測していないと思いますが、でも、間違いなく増えていますよね。」