(子爵)ベント・フォン・メイレル(4)
【王都】メイレル子爵家
「ベント殿、中々厳しい状況のようだ。御屋形様の身は宰相に取られて、宰相派の者共も血気だっている。我らが引いた分、余計に【サリウム】を牛耳られている状況……まさか、こんなことになろうとは……」
ゴラム・フォン・メイレル子爵は頭を抱えていた。
ゴラムは私の母の兄、私の伯父である。メイレル家子爵であり、【サリウム】有数の領地を持ち、【サリウム】で一二を争う名門貴族だ。何より、その領地は【王領】と隣接しており、陸路の要衝として発展している。
ゴラム伯父は、厳つい顔をしているが、行政実務に長けた高位貴族だ。渉外能力は貴族家としては平凡であり、宰相派が暴走といっても良い動きをしている現在の状況は、彼にとっては有利といえない状況ではある。
伯爵の次男である自分の後見人的な位置にもあるが、宰相派の暴走に対して【ダルトーム】の後ろ盾を確保した俺の方が、引き続き優位な立場を持っている形になっている。もっとも、俺も伯父上も、結局はメイレル派貴族の神輿に過ぎないし、俺も伯父上もその事は重々に理解している。それが貴族というものだ。
こうした貴族の宿痾めいたものをリード卿は感じさせない。それは子どもだからではなく、そういう存在なのだろう。
「伯父上、いろいろ事情があったにせよ、これまでは、兄と私の跡目争い……我々と宰相派の跡目争いに過ぎなかったのだと思います。そして、貴族としては普通のことでしょう。
しかし、現在、宰相派は【サリウム】を弱体化してでも、我々を追い出し、【サリウム】を手中に入れようとしている。父を幽閉するなどとは……」
「【王家】や【ソロム】の力が大きく失われたから、その隙に戦で御屋形様の座を簒奪してしまうのではないか。それを【王家】や【ソロム】が認めるのではないか。」
「今、【王家】の護り手は【ダルトーム】です。【王家】が【ダルトーム】に、【サリウム】の行いを認めないといえば……到底、認められるものではないのですが……それを無視する程、【ダルトーム】は甘くないでしょう。」