(子爵)ベント・フォン・メイレル(3)
あえて単純化すると、【サリウム】は兄派と俺派に分かれている。
世間一般では、『嫡子派』と『ベント派』の争いと云われている。俺の名は、王立学園在籍時から【王家】で文官役を行ってきたときまで、【魔眼】持ちの伯爵令息として、ソコソコの優秀さを示していたものと思っている。
まあ、【魔眼】のせいで増長し、【魔眼】のおかげで落とし穴に落ちずに済んだ、のではあるが。
【サリウム】の『嫡子派』は、【大迷宮】の恐ろしさと【ダルトーム】の力を実感していない。つまり、過小評価しているのだ。
サリウム伯爵は、と云えば、『嫡子派』よりはソコソコまともな認識をしていると思われていた。
ここ数か月、『ベント派』は「派閥であるメイレル子爵派への人事的な降格という手段」を受けている。一方で、俺はダルトーム辺境伯から「組織的な支援をお願い」されている。
つまり、『ベント派』の要諦となる人材達は。【サリウム】を干されたかわりに、【王家】【ソロム】【ダルトーム】の復興支援に携わっている状況になった。
俺達の派閥は、【王家】や【ソロム】に恩を売ることを重視した。
兄の派閥は、【王家】と【ソロム】の弱体化を傍観することを重視した。
もともと【魔獣暴走】が発生した割にはダルトーム勢の活躍により【南の国】の被害は限定化されており、ソロム侯爵が私財を投げ打ち、リード卿が深層から大量の高位魔石を継続して持ち込み、そして【サリウム】は多くの人材を【王家】【ソロム】【ダルトーム】に提供した形となった。
結果的に、内部での抗争が原因で【サリウム】は漁夫の利を得ることが叶わなかったことになる。その上、多くの人材を他の陣営に(一時的にでも)渡すことになってしまった。
おそらく父サリウム伯爵は、その責任を『嫡子派』に擦り付け……いや、『嫡子派』はまさに現況ではあるが、対立をあおった挙句、そちらを重視したのは他ならぬ父であった……【ダルトーム】との和解を図ったに違いない。
その動きを察知した兄上と宰相は、父サリウム伯爵を幽閉した。
折を見て……たとえば幽閉中の父が毒を仕込まれ衰弱状況に追い込まれてしまった時に……伯爵位を引き継ぐような筋書きを画策しているものと考えられる。