リード邑(6)
「今日、相談したいのは、77階層内の施設の配置です。
騎士団のみんなにはいつも云っていますし、研究所の方にも伝えていると思いますが、僕は「百試千改」、読んで字のごとく、「百回試して、千回改める」という思いで、この事業に取り組んでいます。
まずは、互いに調整しながら、部材を搬入して施設を設置してよいとはいっていましたが、全く、機能的な配置になっていないと考えています。この認識について、各位、どのような意見を持っていますか。」
「この件については、様子を見てみようということで、私も調整はお任せしましたが、途中から「早いもの勝ち」というルールに調整された点は全く評価できません。」
「研究所としては、それが正しいとは考えていません。まずはその点をお詫びします。」
ベント卿の指摘に対して、私とベント卿に向かって、王立魔術研究所のモートン総務部長は深々と頭を下げました。その振る舞いに、今度はオーガス主席研究員がやや顔を紅潮させています。一方の騎士隊長の3人もやや目線を下げ、沈黙している様子。
「えーと、モートン総務部長、ほかにお詫びする点……、いや、オーガス主席研究員、何か補足することがあれば云ってほしい。」
セド・オーガス主席研究員、30歳半ばの男性。こちらも【王家】出身の法衣貴族の子弟ですが、いわゆる研究者肌というか、典型的な魔術バ〇。ただ、良家の出ということで、少しは節操を持っているタイプと聞いています。
ただ、モートン総務部長が一瞬「あっ」という表情をしました。
しかし、オーガス氏が堰を切ったかのように語り始めます。
「発言の機会を下さり、ありがとうございます。
ここ77階層は、ほとんど誰もが踏み入れたことがなかった深層の広大な空間です。ここでは地表や迷宮浅層と比較にならないくらい多量の魔素を含んだ空気で充満しており、軍備のみならず、あらゆる学術研究の場面において、この環境は非常に重要な地であることを研究員一同認識しております。
ただ、どうしても専門性が高い事から、騎士団の皆様方や、ダルトーム辺境伯領の方々には、軍事の面でしか、その重要性を捉えることができません。ここは、魔素に関する様々な新たな知見を得ることができ、世を変える新たな真理を生み出す可能性が、いや蓋然性が非常に高い場なのです。」