補講(1)
王立学園 【十二ノ月】
僕は、先月に開催された学園行事である文化祭に参加しませんでした。ちなみに、その前年は、【ソロムの魔獣暴走】の余波で自粛でした。
理由は……、学園の生徒と、その父兄の襲来があまりに怖かったからです。(とても面倒くさいともいう。)
「本当は、そういう行事などを活用して人脈っていうのは築いていくのだがねえ……」
ベント卿はそうぼやきながらも、深層階開発の重要局面という理屈で僕を呼び出してくれました。
まずかったのはその後で、ベント卿や(御屋形様達が)「深層階での魔装の習熟訓練」に嵌ってしまい、しばらく77階層でのキャンプ生活に明け暮れてしまったことです。
なお、「御屋形様達が」の部分が()書きなのは、公式行事が立て込んでおり、休む期間がなかったためです。ちなみに、ウォード騎士団長は、定期便に合わせて、空いた時間で騎士団員とともに77階層に入り浸っています。
決して生活環境は良くないのです。何せキャンプモードですから。
それでも、日に日に魔術研究所の研究員も増加しています。この人達は日頃から快適な生活を営んでいないのでしょう。77階層の生活に文句ひとつもいいません。というか、定期的に地上に帰ってほしい。
考えてみれば当たり前なのでしょうが、「魔素の密度が高い空間の方が、魔装の開発や研究や習熟訓練等が極めて捗る」のです。
あのベント卿ですら、「何事も経験です」といって【魔獣】討伐に同行し、オスカー隊長の指導のもと、後衛からの攻撃に参加するという経験を得ていました。
ゲームの世界ならパワーレベリングができる環境なのですが、ゲームの世界ではないので。でも、実際に【魔獣】討伐の場に参加するであるとか、実際に自分の魔術を【魔獣】に放ってみるであるとか、そうした経験は「勘違いさえしなければ」本人の益になるのだと思います。
ちなみに、ベント卿はリード分団の面々と問題なく過ごしているようです。リード分団の面々も高位貴族との付き合いは慣れていますが、奇しくもベント卿は「騎士の面々を下に見ない」というスタンスを維持している様子。
今、窮地に陥っていないのもベント卿の仕込みですし、さて、我々、相当メイレル子爵家(ベント卿の母方の実家)に依存していないでしょうか。