(子爵)ベント・フォン・メイレル(4)
リードからは身体強化の首飾りを渡された。可能な範囲で常に起動させておいて、身体強化の感覚をなじませてほしいとのこと。
強化した握力だと、ろくに羽ペンで書類を書くこともできないのでは……、と聞くと、そういう繊細な作業こそ、深層魔装を使いこなしていくコツだということ。
命を狙われている身であるからこそ、自分も探索者まがいの事をする必要がある。
考えてみれば、辺境域の貴族であれば、こうした努力もしているのかも知れない。
「いやあ、ここまで強力な魔装は、魔素が充満している深層階でないと、こんな我が儘な修行はできません。ぜひ10日間でどこまで馴染ますことができるか挑戦してみてください!」
俺は実験台かよ!
◇
ノーマン・フォン・ダルトーム辺境伯爵、エミリ・フォン・ダルトーム子爵、ダルトーム宰相であるトルド・フォン・グレイン子爵、ダルトーム騎士団団長であるウォード・フォン・サリウス子爵。
なぜ、この人たちが【南の大迷宮】77階層にいるのか。どうなっているのだ、ダルトーム。
「まさか、本当に先輩が【南の大迷宮】の深層に出向いていたとは。正直、サリウム伯爵家の方の振る舞いとはとうてい思えませんね。」
ダルトームの当主の目の前で、そんな感想を云われても、なかなか対応しづらいのだが。
「まあ、現場主義っていうのは、それはそれで大事なことさ。俺も50階層から下には来たことがなかったからな。
リードの奴め、しれっと深層階の魔石を深層階開発に充てるといいやがって。他にも金が必要なところってのは五万とあるんだけどなあ。」
「まあ、御屋形様。リード分団の維持費用は全てこの事業で生み出す収益から充てるということですから。でも、【王都】の警護案件で別途人数が必要とかそんな話があったような気も。分団の方から応援してもらうっていうのも有りかなあ?」
「御屋形様、騎士団長殿。これまではリード君が周囲に調整を投げていたところを、これからはベント卿にお願いすることができるのですから。ところで、御屋形様がやってきたというのに、リード君は一体どこに。」
俺は肩をすくめた。ダルトームの面々はそっとため息をついた。