(子爵)ベント・フォン・メイレル(2)
【南の大迷宮】77階層
俺は、そもそも【迷宮】の浅階層しか行ったことがない。
せいぜい20階層と使った迷宮間転移のため、護衛を伴い、迷宮を利用した場面だけである。しかも、【サリウム】からみれば、【王都】も【ソロム】も【迷宮】を使わずとも陸上の輸送で十分対応できる。
そういった事情もあって、【中央派】は【迷宮】の制御にあまり前向きではなかったのだが。
魔眼持ちの俺からすれば、この濃密な魔素を伴う深層階には相当の違和感を持ってしまう。
おそらく、他の人間達と、あらゆるものの「見え方」が若干違っているかも知れない。周囲の魔素を使って、魔眼が十二分に機能しているからかも知れない。
「ベント卿、ありがとうございます。自分、こっそり深層に隠れて……いやいや、ここに近接する【魔獣部屋】を発見して、膨大な高位魔石を定期的に確保できる目途がたったので、地上とここを行き来する部隊運用を検討する必要があったので、やむを得ず、ここに滞在したのですが……
でも、ベント卿が一筆書いてくれたおかげで、誰も何も怒ってこない……いやいや、適切に状況を周囲に伝えることができて、大変、感謝しています!」
本当は皮肉の一つもいってやりたいところだが、深層階の周辺の魔素と、リードの持つ深層魔装がうまく調和している様を見ていると、騎士としても探索者としても、如何に強力な力を備えているのかが分かってしまう。
周囲の騎士や探索者たちも薄々は感じているのだろう……
「おかげ様で、私自身が77階層に降りることができました。私も10日間ほど、ここに居て、運用面での実態の把握をしていければと思っています。」
施設配置については、もともと管理庁舎にて図面や配置図を書いてはいたものの、やはり、実際に現場を見てから詳細を詰めていく方が良いとも考えていた。
「リード卿、手紙にも記したとおり、75階層の階層主【大砲虎鬼】と、78階層の【魔獣部屋】の【黒大蜥蜴】を定期的に討伐し、その過程で得た高位魔石は、全て本事業に充当するという取り決めでよろしいのですね。」