(伯爵令息)ベント・サリウム(3)
王都 メイレル子爵家王都別邸
エミリ・フォン・ダルトーム子爵。【ダルトーム】の嫡子であり、王立学園では俺の後輩にあたる。
【ダルトーム】のトレド宰相とともに、俺に会いにきた。
応接室に入ると、改めて2人の「色」が見える。
特に才媛と名高かったエミリ卿は、さらにその色の鮮やかさが増していたが、その鮮やかさに隠れても見える「経験度=熟練しているという雰囲気」は相当のものだった。
一方の、トルド宰相……トルド卿は、伯爵家の文官の筆頭ではあったものの、貴族家の家督は家族に譲っていた。その魔力といえば、厳密にいえば、貴族家としては優秀、高位貴族としては一般的というところ。
「辺境派」で屈指の政治の辣腕家であり、いかに貴族とはいえ、魔力量のみでこの男を判断するような輩はいないだろうが……
しかし、その、トルド卿の持つ「経験度」は、「感じる」を通り越して「視える」レベルだった。
この魔眼の能力故に、自分としては、何が見えても感情には出さない、できるだけ自分の魂の色にも影響させない。
そういう覚悟はいつでもしているつもりだったが……
自分の驚きが先方にも伝わったのだろう。
「正直、先輩には話を聞いてもらえるかどうかくらいのつもりできたのですが…… その様子を見ると、私達の話を聞くことについて、問題はないと捉えてもよろしいのでしょうか?」
「エミリ卿に『先輩』と呼んでもらえるのは光栄なことですな。ただ、ご承知のとおり、サリウムでの事情があるとはいえ、私は典型的な「中央派」に属するものです。あなた方からみれば、むしろ「火中の栗を拾う」ことになりはしませんかな。」
◇
【ダルトーム】の内政に参画してもらえないかという依頼だった。
そう、中央進出をせざるをえない【ダルトーム】は、本当に人材不足の状況だ。【サリウム】にて派閥争いの中で劣勢になっている俺の状況をみて、交渉の余地があると見たのだろう。
エミリ卿の伝手、トルド宰相の発案、彼らが俺に提示したのは、【南の大迷宮】77階層の開発であった。