初級魔術の授業(2)
「先生は、リード君のことを、ワーランド君ではなく『リードさん』と呼ぶのですね。」
にやにやしながらエーベル嬢がニコル女史に話かけます。
「ええ、ええ。恐れ多いことですが、騎士団のだれもが、リードさんのことを『リード君』と呼んでいますね。私は、騎士団では形式的には、リードさんの『従士』でしたが……」
ニコル女史がこちらをじとりと見ます。
「もう、皆さん、大分お気づきかとは思いますが、騎士団において【災厄】鎮圧作戦の中で、私を実施指導していたのがリードさんでしたから、私が専門とする宝具に関していえば、その運用について、リードさんは私の指導者ということになります。
まして、ダルトーム騎士団内にリード分団が創設されました。当然ながら、リードさんは分団長の位に就きますので、本来はリード卿とお呼びすべきでしょうが……何しろ相も変わらず天邪鬼な人なので呼び方は今までのままで良いと。
そちらの方が面倒くさくない……ごほん、ごほん、効率を追求する方なので。」
これまでの学園内の姿と異なり、ニコル女史の割り切った態度に、あのエーベル嬢があ然としています。
ジェシカ嬢もマリノ君たちも、ニコル女史の豹変ぶりに驚いてはいるようですが、エーベル嬢の『いぢり』にニコル女史が開き直って対応する状況のインパクトの方が大きいのだと思います。
みんな、素だよ、あれ。
「ところで、リードさん。オスカーさんから伝言届いていますよ。」
ニコル女史が、僕に書類を差し出してきました。当然ながら【南の大迷宮】の進捗状況のことでしょう。さてさて。
『階層主の行動パターンの確認、宝具【王の矛】の課題抽出、深層階の【魔獣】の活動状況の3点についてモニタリングしながら、深層階への進行を続けた。』
『いくつかの課題はあったものの、概ね想定の範囲の中で、もっとも円滑な作戦行動が展開できた。』
『特に宝具【王の矛】の部隊運用は圧倒的で、通常の階層主への対処については著しく戦力過剰の状況である。』
『そのため、全床が安全区画である77階層に無事到達した。到達履歴のある騎士により、これより資材搬入に移る。』
え、何だよ、これ。書類を持つ僕の手がはげしく揺れ始めました。