(講師兼主席研究員)ニコル・フォルマッテ(2)
「いやあ、話が早い。それ、全部、リード卿への面会依頼ですよ。それ、全部。」
え、大事な所だから2回繰り返しました、みたいな表情をされても。
「リード卿、現在、自分の日程管理は、自分自身で行っているのですね。」
「それは、リード様は、現在、騎士団の官舎にお住まいですから。それ以前は学園の寮ですし。」
「……学園の多くの父兄達が、リード卿と連絡を取りたがっているのです。」
「はあ、それはワーランド家なり、ダルトーム騎士団なりに連絡するしかないのだと思います。ただ、実務であれば、それぞれ家人なり、騎士団なりが対応しますし、実務以外であればリード様は対応されないでしょうね。」
成るほど。多くの貴族がワーランド家と縁を結びたいと考えているけれど、当然ながら、ワーランド家のウェリス家宰も、騎士団のリード分団準備室の面々も、実務以外の交渉は一切お断りという姿勢でしょう。
ただ、王都や領都に居宅を持つ事もなく、飄々と学園に通っているという学生である、という視点からみると、学園を通じてリード様と接触を試みるというのは、云わば、盲点であったともいえます。
園長室がこの有様ということは、学園内でも……
「それにしてもフォルマッテ先生。学園内でのリード卿の取り扱いは、先生にお願いしていたはずですし、この書類の……」
「いえ、園長。私が担任しているのは、『我が校の生徒をリード様によるトラブルから守るため』です。生徒の父兄からの接触干渉は学園の皆さんにお任せします。子どもたちなら兎も角、自ら火の粉を浴びに来るなんて、ぐふふふ……」
「はあ、私は園長ですし、貴族でもありますから、私があなたに役割を新たに命じる……そうできれば、些かでも楽になるのでしょうけれどね……」
「それは園長、お勧めしません。それを命じるということは、相応の責務を園長が新たに負うということですから。【ソロムの魔獣暴走】を鎮圧させたのもそうでしょうが、リード様はその後もダルトームの政務システムの改善であるとか、【大迷宮】深層への拠点整備であるとか、様々な課題に関与して、相応の実績を上げておられます。
……、その都度、私も迷惑を被るのですが」