(講師兼主席研究員)ニコル・フォルマッテ(1)
王立学園園長室。
私は園長に呼び出されました。
いつもは完璧な紳士である園長の表情が……少し顔色も悪く、云っては何ですがいつもより老けて見えます。
園長は、サーザイト・フォン・ロルドベイル子爵。
王家の法衣貴族ですが、【王都】在住の子爵らしく、領地は持たなくても、学園を統括・運営するという役割を持つ貴族です。
代々、長いモノに巻かれることもなく、王家からの信頼も篤い貴族家というところでしょうか。
園長自体、壮年期に差し掛かる男性ですが、教師や学生から尊敬される、教育者の鑑というべき方ではあるのですが……何か問題でも生じたのでしょうか。
「フォルマッテ先生、何をヒトゴトのように……」
「リード君、いえ、リード様は子爵に叙爵されました。私ごときがリード様の心配など。いえいえ、教育の重要性は多少ながら心得ていると思っていますが、所詮、講師の身ゆえ……」
「そうは云わず、まずは状況について話を聞いてもらえませんか?」
「はい……」
◇
リードさんは、もともと子爵家嫡子。しかもダルトーム地方の領主家でもあります。
ですが、それはここ1年間で急転した事態によるものです。もともとは妾腹の出で、本人も爵位には興味がない人でした。
私も同様であり、リードさんの気持ちの在り様は何となく分かります。
現在、王立学園第2学年の生徒でありながら、ワーランド領の領主となっています。ただ、本人の性格や行動パターンについては、良くも悪くも「貴族」然していません。
園長が、やや憎々しげに補助机の上の書類の束を睨みます。
さすがは王立学園の園長ともなると、重要な判断を行わなければならない案件が山積しているのでしょう。
「いやあ、話が早い。それ、全部、リード卿への面会依頼ですよ。それ、全部。」