(伯爵嫡子)エミリ・フォン・ダルトーム(5)
騎士とは、領内における治安維持と、敵国を相手とする軍事機能を担う役割を持つ。
主に貴族の子弟で編成される騎士団は、魔術と剣戟による攻防を想定している。そのため、重装騎士であっても動けることが基本であり、鎧は鋼鉄を素材とするものであっても軽量のものしか用いない。魔術が飛び交う以上、人は動けることが前提だからだ。
それでも、探索者と比較すると騎士の鎧は大きく頑丈である。
そのメリットである防御機能の増強、デメリットである移動を阻害する要因を少しでも和らげるため、強度増加や軽量化の術式が刻まれたスロットを設けた防具も多く、それらは資金力の高い騎士団が装備を確保していく傾向が強い。
今回の私の課題は、「15階層をクリアすること」であって、魔獣退治が目的ではない。極端な話、こっそり魔獣阻害の魔石を身につけ、できれば階層主のみを攻略することがもっとも効率が高い。一族の者でこっそりそうしている者を確かにいるだろう。
だが、まさか、それに相反する小細工をされるとは……
「ちょっと僕、全然、稼げていないんで、とっとと階層主を攻略しちゃいませんか。僕は群れのほうを倒すんで、騎士団の皆様には長の方をお願いしたいんですが。」
「そうだね、ここでじっとしてても仕方ない。私が魔術で先制するので、混乱したところを仕留めてしまおう。」
15階層の攻略は改めて。
とにかく、まずは地上に戻らなければ。
騎士ウォードとリー少年に続き、私たちは階層主の部屋に向かった。
階層主との闘いは、ものの10分で終了した。
階層主の部屋には、灰白犬鬼の群れ20頭と、他の個体より一回り大きい灰白犬鬼の長がいた。
騎士ウォードが呪文を唱え始めると、それを妨害するよう長が攻撃の指示を出す。
それを無視して、長に魔術攻撃を浴びせれば、長も犬鬼たちも「先に何をすればよいか」混乱に陥ってしまう。その混乱の最中、私と随行2人は長に向かい、騎士ウォードとリー少年は取り巻きの犬鬼を一体ずつ確実に倒していった。
なまじ知性があり、周りの犬鬼の加勢をあてにしようとする灰白犬鬼の長は、かえって攻略しやすい魔獣となってしまっていた。おそらく、先ほどの自分も同じような状況だったのだろうと認識してしまう。
もともと、私たち3人で攻略しようと思っていたのだ。
たとえ、魔獣寄せで著しくペースを乱されていたとしても、階層主の取り巻きが通常の倍以上であったとしても、階層主を倒すのに時間はかからなかった。