新学期のイザコザ(2)
いつも僕を取り囲む男子達が、いつもの台詞を囀ってくれるのを期待していました。
しかし、彼らはこちらを見て舌打ちしただけで、何も動きはありません。
そもそも、今日、玄関から教室まで、いたるところで、女の子達に声をかけられます。
その内容は、「ごきげんよう」という挨拶に、自己紹介が加わったもの。そんなにしつこい振る舞いでもないのですが。
……もしかして、子爵に叙爵したことが原因でしょうか。
「ごきげんよう。リード君。交遊会のとき大変だったと聞いたけれど、大丈夫?」
教室に入ると、モーム・アマリティ嬢が、こちらに近づき、挨拶してきました。
でも、彼女は入学時から、エミリ姫様との縁もあり、相当に気安い友人でもありますが、何か様子がおかしいですね。他所他所しいというか、他人行儀というか。
次に自分のもとにやってきたのは、エーベル・ロークライ嬢です。
先程まで、ジェシカ嬢と仲良く話をしていた風ですが、モーム嬢の動きをみて、こちらにわざわざ歩み寄ってきた感じ。
「おはようございます。リード君。【ソロム】にも、【ダルトーム】での噂が舞い込んできていますよ。」
「二人とも、おはよう。何、どうしたの?何かいつもと違うよね。夏季休暇のときに何かあったの?」
僕の声を聞いて、軽く挙手するモーム嬢。
今更、こいつは何をいっているのだという表情のエーベル嬢。モーム嬢と軽く目線を合わせて、発言を譲った感じになっています。
「実家の方から、多少なりとも今までよりリード君との仲を深めておけ、まずは在学中に挨拶から……って指示が届いているの。で、おそらく、私だけじゃなく、学園の女子、みんなそんな感じかも。」
「私も、本来、お嬢の傍でお嬢の相手をするのが私の役割だと思っているのだけれど、実家から、それに加えて、リード君と仲良くしておけって。でも、しつこく付きまとってはダメで、まずは挨拶から……、ということだから、リード君の事情はさておき、挨拶にきたの。」
それを機に、A組の中の女子の級友達が苦笑いしながら、こちらに寄ってきては、「ごきげんよう、リード君。」とにこやかに微笑みながら挨拶して、そして自席に戻っていきます。
「あれれ、どういうこと……?」
モテモテ……
たしか、私の記憶によるとニューギニアの奇獣だった気がします。