(伯爵嫡子)エミリ・フォン・ダルトーム(4)
普通、探索者の二つ名はトップクラスの探索者につけられる習わしである。しかも、その二つ名は本人が希望するか否かに関わらず、である。この少年につけられた二つ名は、どちらかといえば渾名であり、しかも冗談ややっかみが多分に含まれている様子である。
現在、ダルトームの探索者協会の会長は、たしか【オールラウンダー】といわれるA級探索者である。本人は全く仕事をする気がなかったのに、昨年、脅されたか嵌められたか、いやいやながらに要職に就く羽目になったそうで、王都の学園に通っている私でも知っていることだった。
「いや、こんな小さな少年が15階層をソロで回っているのは、ふつうに考えるとあり得ない光景なんだけど、噂になっているギルドマスターのお弟子さんなら、まあ、おかしくないのかなあと。」
騎士ウォードも私も、こっそり鑑定で少年の魔力を測っていた。平民としては高い能力だが、貴族であれば平凡。ただ、火、風、土の3属性の幅広な能力を持っている。
「まあ、道具を使いこなすのは、確かに得意ですよ。」
リー少年はそういって、腰帯を軽く2~3度叩いた。初級レベルの魔術しか使えない能力レベルでも魔術術具を使いこなすことができれば、戦闘では極めて優位だ。ただ、魔術術具を使いこなすのは相当かつ相応の経験を積む必要がある。
「なぜ、この階層にいるのか、教えてもらっていいかい?」
「それはお互い様……といいたいのですけれど。まあしょうがないですね。私は、熟度向上のためにこの階層にきていたんです。」
「レベリング?こんなに階層が荒れて、遭遇率が高いときに?」
「騎士様、違います。私はレベリングのためにこの階層にきたのに、ほとんど灰白犬鬼と遭遇できませんでした。やっと群れと遭遇したのが、騎士様たちが戦っていたあの場なんです。」
「え……」
「ということは、騎士様たちは意図的に「おびき寄せ」をしていたわけではないの?」
私と随行2人は、改めて装備を確認しはじめた。鎧の裏を調べていた随行の少年の一人が小さな声をあげた。
「魔石の色が変わってる……」
鎧のスロットに挿入されていた魔石の色がおかしい。
「これは……、魔獣寄せの魔石。しかも、表面の色が剥げている……」
随行の少年の顔は青ざめ、騎士ウォードの表情は冷たいものとなっていた。