「総括の場」(5)
多分、僕より付き合いの長いウォードさんの、エミリ姫様を見つめるその表情が、とても心配げです。
「大丈夫、大丈夫。リード君にも付き合ってもらって、しっかり鍛えているからね。」
姫様は明るく微笑みながら、こちらを向きました。
「時にリード君、ジェシカさんと仲良くやっているって聞いているけれど、あの娘は性格も穏やかで優しいんだから、泣かすような事をしたらダメだからね。
オーランド卿からしてみれば、これから娘を貴族に叙爵されるのは本意ではなかったと思うし、ジェシカさんもいろいろ心細いと思うの。でも、これからは、リード君がしっかり守ってあげるんだもの。」
「……、ええと、姫様はやはりジェシカ嬢と面識はあるのでしょうか。」
「もともと【ソロムの宝石】と称される、侯爵閣下の溺愛する孫ですからね。生徒会としても、しっかり支援を、と思っていたけれど、本当に優しくて周囲への心配りに長けた後輩で、何も手助けをする必要はなかった分、仲良くお付き合いできていたなあと。
……、そういえば、学園を卒業して、本当に忙しくて、出会う間もないかも。」
もしかして、姫様は、自分が置かれているブラックな労働環境について、はじめて、その違和感を持っているのかも!
そういえば、学園を卒業してから、きちんと迷宮に入っていないかも。騎士団再編にも関わっているのに……と呟き始めています。
ウォード副団長がおろおろしています。何気にその事に気が付いてもらっては困る。自分の仕事が触れるじゃないか!って考えている気がします。
※昇爵と叙爵の違いについて
昇爵とは、すでに貴族である者が、社会に貢献したり功績を挙げたりすることで、爵位を上げることです。例えば、男爵が子爵に、伯爵が侯爵になることなどが該当します。
叙爵とは、平民や無位の者が、貴族の仲間入りをすることです。つまり、初めて爵位を授与されることを指します。
両者の違いは、すでに貴族であるか今から貴族の仲間入りですと表明されているかどうかです。