「総括の場」(4)
「卿らの云う事を聞いたのだ。その分、しっかり働いてもらうぞ。」
トルド宰相の顔はマジです。広間の中もしんとしています。
ただ、貴族の皆さんは、潜在魔力量の為せる業なのでしょうか、本当に図太い。
「最大の権能を、最小の義務で交換する」というのが領主としての腕の見せ所なんて思っている人は、うちの領内だけではないのだと思います。残念ながら……
◇
休憩時に姫様が僕の様子を窺いにきました。
「らしくないね。相当、緊張しているリード君をみるのも、なかなか面白いわ。でも、別に発言の機会とかダンスをお披露目するとか、そういう事柄はないのだから、そんなに緊張しなくても良いのに。」
「……姫様、副団長より上席に座らせるなんて、常識外にも程があります。」
「私は、日頃、見慣れないリード君の表情を見ることができたのは貴重な経験でした。しかし、そのおかげで私も、非常に悪目立ちする席に座らせているので、ある意味、リード君に同意です。」
あ、僕のかわりにワーランド領主の席に着いているウェリス先輩の本音は「非常に悪目立ちする席」なんですね。やはり、先程、聞こえた先輩の心の声は空想ですらなく事実でしたか……
まあ、ここはダルトーム領ですので、中心地域の、王都やソロスのように、品の高そうな会話の中に高度な嫌味や皮肉をブレンドするような輩はほとんどいません。ほら、ワーランド領の男爵たちは嫌悪感を浮かべた表情で、姫様と歓談する僕とウェリス先輩を見つめています。
なお、今回の交遊会中に姫様と面談する機会があり、姫様のことをエミリ卿と呼ぶと、姫様は深くため息をついて、交遊会中とはいえ、非公式での会合時には、そこまで気を遣う必要はないのだと窘められてしまいました。
とはいえ、学園を卒業し、子爵に昇爵して政務に勤しんでいるエミリ姫様は、本当にお忙しそうだと聞いているし、交遊会シーズンに至っては、それこそ、分刻みのスケジュールで動いていて、まるで人気俳優さんのようです。
体調とか、大丈夫なのか……




