(伯爵嫡子)エミリ・フォン・ダルトーム(3)
「エミリ様、危ない……!」
騎士ウォードの声が響き渡る。やや大型の、怪我をして動かなくなった灰白犬鬼が、突如、私に向かって突進し噛み付いてきた。
「……!」
頭の中が真っ白になり、身体が固まって動かなくなった。一撃を覚悟するしかない。
しかし、鈍い衝突音がしただけで、いつまでたっても私が攻撃を受けることはなかった。
やや大型の灰白犬鬼は、横から飛び込んできた少年に突き飛ばされていた。少年の手には剣。その剣に刺し貫かれた犬鬼は、一撃で絶命していた。残りの犬鬼を騎士ウォードが切り飛ばしていく。
「エミリ様、まずはボス部屋の前のセーフティゾーンで態勢を整えましょう。君も一緒に付いてきてくれますか。」
騎士ウォードが指示を出す。
そして、私を助けてくれたであろう少年にも声をかけた。
とにかく今日のこの階層の魔獣の動きはかなりおかしい。何とか態勢を立て直したい。
私も随行の2人も疲れ切った身体に鞭をうち、とにかくこの場を離れるため、騎士ウォードに従い、歩き始めた。 ◇
15階層。セーフティゾーン部屋。
迷宮においてセーフティゾーンは本当に安全なのか?
その保証はだれもしてくれない。いろいろな噂話もある。ただ、公式な記録としてセーフティゾーンと認定された部屋の中では魔獣との戦闘は発生しないのは事実である。
私たちは、セーフティゾーンにたどり着き、装備の確認、怪我の簡易治療を行っていた。
「先ほどは助けてくれてありがとう。私はダルトーム騎士団のウォードという。この者たちは団員候補者で現在訓練中だったところだ。君は……、【オールラウンダーの弟子】?」
私を助けた小柄な少年は、少しいやそうな表情を浮かべていた。
「ええと、僕はリーといいます。C級探索者です。確かにギルドマスターは僕の先生ですが……」