(伯爵)ノーマン・フォン・ダルトーム(3)
俺は、少しため息をついた。
「ただ、お前が年少者であることは事実だし、お前自身が身の丈に合わない権限を持ちたくないのも、それは分かっている。ウェリスに爵位を譲るなどは論外中の論外だが、宰相の云う通り、強固な家臣団をつくって、それに一任するというのは、一つの方法であり、だからこそ、うちの家人であるウェリスを、ワーランド家に押し込んだわけだが……」
そう、リードはA級探索者で、もともとは子爵家の傍流の者として、「貴族ではなくなる」前提で生きてきた身だ。
ワーランドの領民に対する子爵家の責務について、若干ながら思いがあるからこそ、こうして「秋の交遊会」に参加しているが、本来はワーランド家に対してそこまでの義理はないと考えてもおかしくない。
正直いって、領主であるエーデは優柔不断できちんとした判断を下せない奴だが、それでも、今のワーランド家の中では「まともな方」なのだよなあ。
そう考えると、貴族として、やはりリードがワーランド家を継ぐのはダルトーム伯爵家として譲れない判断となってくる。
「たとえば、うちの娘を……」
おい、トルド。そんな眼で俺をみるんじゃない。
痩せても枯れても、ダルトームは武門の出。やはり、潜在魔力量についてはしっかり配慮する必要は分かっている。だから、娘と結婚させるなんて、一言もいってないだろ!
「たとえば、養子縁組してうちの……」
おい、ウェリス、そんな眼で俺を見るんじゃない。
いっそのこと、リードをダルトーム伯爵家で取り込んでしまうという手法もあるにはあるのだが、ダルトーム地方の有力領主であるワーランド子爵家の行き先を考えないのは、蛸が自分の脚を食べるようなものだ。
ほんのちょっと思いついていただけだよ、ほんのちょっと。
※実は家臣団の中で詳細検討して、「それも選択肢としてはあり得ても、リードにはあまりメリットがない」という結論は出していたりする。