(伯爵嫡子)エミリ・フォン・ダルトーム(2)
今回は私と騎士爵の子弟2名が15歳であることから、15階層まで転移しての攻略である。
途中の道のりを省くことができるのだから、いわゆる「通し」での攻略と比べると負担は圧倒的に軽い。
迷宮の階層ごとの魔獣配置も概ね変わることはないため、その階層の対策をするだけでよくなるからだ。
15階層は、灰白犬鬼の群体が出没する階層だ。階層形式は中盤までは宮殿タイプ、後半は洞窟タイプになる。そして御多分に漏れず5階層ごとに階層主が出現し、ここの階層主は灰白犬鬼の長が出現する。
予想より魔獣の数が多くてペースはきつく魔石の消費も激しいが、一応、想定範囲に収まっているだろう。私は、自分に付き添っている2人の少年の顔をみて頷いた。ちなみに、付き添いの騎士は攻略には一切手を出さない決まりとなっている。 もっとも、いかに定例的な試練とは言え、伯爵家の嫡子の身を護るため、その付き添いは当家の最強の魔法剣士なのではあるが。
幾度かの群れを追い払ったが、徐々に群体の強さが高くなっていた。もともとハイペースだったものがさらに数が増えてきており、ここまでくると想定外ともいえる。
引き際を誤ったか……
唇をぎりりと噛み締めた。決して難易度の高い階層とはいえず、その攻略の判断を見誤ったことを親族たちがどう評価するか。そうしたプレッシャーも影響があったことは否めない。随行の2人も冷静ではいられなかっただろう。自分のミスだ。
犬鬼の声が石畳の回廊に響く。
「エミリ様、前方は私が対処します。後ろからの敵の対応をお願いします。」
これまで一言も口を出さなかった騎士ウォードが呪文を唱えた。爆発系の魔術。進行方向で炎が爆ぜたが、犬鬼の声は止まない。付き添いの騎士=試験官である騎士ウォードが、何の警告もなく戦闘に参加したということは、「私たちの身に危険が迫っている」つまり非常事態であるということだ。随行の2人を叱咤し、私たちも直ちに陣形を整えた。
これまでよりも激しく灰白犬鬼が群れて襲い掛かってくる。
犬鬼たちは相当興奮しているのか、攻撃方法は一直線にこちらに向かってくるだけ。しかし犬鬼の血糊で、剣の切れ味も相当鈍ってきた。それでも、相当の数を殲滅し、そろそろ終局が見えてきたところで、
「エミリ様、危ない……!」