(伯爵嫡子)エミリ・フォン・ダルトーム(1)
領都【ダルトーム】。
【南の国】で有数の都市。そして例外なく大都市には迷宮がある。
この領都の迷宮の名は【ダルトームの迷宮】であり、都市を統べる伯爵家の名は【ダルトーム】である。
この世界には、4つの国がある。それぞれ【北の国】【東の国】【南の国】【西の国】という。
それぞれの国には首都があり、首都の名はなく、そして例外なく首都には大迷宮がある。
迷宮は、魔石という資源を生み出す。魔石は魔術術具のキーデバイスであり、世界の産業と経済を牽引する資源である。一方で、迷宮は多くの魔獣を生み出す。一たび、大規模な迷宮の内部の生態魔力バランスが崩れると【魔獣暴走】が発生し、地上の多くの生物を喰い荒らしてしまう。
だから、私たちの世界は、良くも悪くも迷宮と伴にあり、その迷宮を制しているものが、この世界の支配者である。
「はあ……。」
「お嬢様、どうなされましたか?溜息などつかれて……。」
私の名はエミリ・フォン・ダルトーム。
ダルトーム地方を治めるダルトーム伯爵家の嫡子である。
その家風は一言でいえば脳筋だ。迷宮を統括するからこそ領地を治めるという思想がある。ちなみにバカバカしいと自分でも思うが、その思想に一理あると思う自分の血が恨めしい。
そんな当家のオリジナルルールは、「自分の年齢分の階層を攻略する」というものだ。
【ダルトームの迷宮】は800m四方のフロア、50階層で構築されている。20層に【南の大迷宮】と行き来できる転移魔法陣があり、20歳の時、この魔法陣で王都に出向くのがダルトーム家の習わしである。
「魔石の手持ちはどんな感じ?」
「犬鬼の数が思ったより多くて、かなり使ってしまいましたけど、もう中盤も過ぎましたし、このまま階層主まで倒してしまってもいいんじゃないでしょうか。」
「……、私も全然大丈夫です。」
「……」
今回はオーソドックスに4人パーティで迷宮に潜入している。
一定規模の迷宮には、階段エリアに上下転移機能があって、迷宮のスロットに一定の魔石を放り込めば、自分が訪れたことのある階層に行くことが出来る。今回は私と騎士爵の子弟2名が15歳であることから、15階層まで転移しての攻略である。(ちなみに1人は付き添いの騎士。)
途中の道のりを省くことができるのだから、いわゆる「通し」での攻略と比べると負担は圧倒的に軽い。