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(侯爵夫人)アマンダ・ソロム(2)

 息子2人は成人し、【ソロム】で侯爵家とバローム家において一から領地や商会経営について勉強を重ねています。

 そのため、【王家】の侯爵邸は、私とジェシカの生活拠点になっています。夫オーランドが【王都】にいるのは、だいたい月に半分程度でしょうか。


 私達とジェシカで食事をした後、夫の執務室に呼ばれました。食事のときから、ため息をついていたので、悩み事でもあるのでしょうか。まあ、【ソロムの魔獣暴走スタンピード】の後、息をつく間もなく、この1年間、悩み続けているのですが。

 部屋の中で、夫に促されて、私もソファに腰かけました。


「あなた、そんなに調整がうまくいっていないの?」


「いや、正直なところ、ダルトーム伯はかなり譲歩してくれているよ。

 突き詰めていえば、ある意味、貴族としては『贅沢』な悩みなんだ……」


 『貴族』としては贅沢な悩み、ですか。復興だけではなく、家族に関わることなのでしょうか。


「今回の【ソロムの魔獣暴走スタンピード】鎮圧には、ダルトーム伯が最大の貢献をした。もっというと、本来、魔獣暴走が収束するには、都市【ソロム】が崩壊するほどの被害を受けることが当然だったのに、宝具と騎士団の運用により、【迷宮】の地上口付近で【魔獣群】の暴走を喰いとめることができた、それはいいよね。」


 確か、宝具の魔石交換の隙を縫って、防衛線を喰い破る【魔獣】の個体もいて、市街地にも大きな被害を生じさせていたけれども、これまでの魔獣暴走であれば、そもそも、地上口付近の防衛性で食い止めること自体が不可能なわけですから。


「市井に出回っている話の中では、ダルトーム騎士団が、【大迷宮】から【ソロムの迷宮】に侵入し、【災厄】を退治したことが最大の貢献……ということで、いいのよね。」


「どうにも、伯自身も迷宮に降りて、陣頭指揮を執ったらしい。まわりの武官、文官達が苦虫を嚙んだような表情かおをしていたよ。

 問題は……、まあ、厳密には問題というのもどうかなのだけれども、本来、都市が壊滅するような規模の魔獣暴走が発生しながら、貴重な深層の高位魔石を消費し、優秀な騎士達が【魔獣群】を横撃することで暴走を鎮圧してしまった……

 確かに地上では市街地にも大きな被害が出たし、地上口にいたうちの騎士団や、【王都】や【サリウム】の騎士団にも大きな被害が生じたけれど、誰もが分かるとおり、『本来なら、都市ソロムが壊滅するような事件を、ダルトームが無理やり解決してしまった』点が、話をややこしくしていてね。」


「そうね、仮に、仮にだけれども、【魔獣暴走スタンピード】の規模が小さくて、【魔獣】がソロムの街で直接暴れるようなことがなければ、市井の人達は【魔獣暴走】の怖さを実感できなかった。実際は、中央派の騎士団は相当な被害を受けて、【ソロム】の避難誘導や区画封鎖を、みんなが実感したのは確かね。

 その感覚がなければ、今回の事案なんて高位貴族間の勢力争いだなんて、云われる可能性だってあるかも。」


「そう、本来は莫大な被害がでるはずの大災害に対して、騎士団の想定を遥かに超す活躍により、その被害を最小限に食い止めることができた。

 【ソロム】としては過去の歴史にない【災厄】に見舞われ、侯爵家への債務を整理し、それを、ソロム侯爵家の資産をダルトーム伯に譲れば、利害調整が済んでしまうという状況だね。」


「各貴族家への債権の整理……。今回のソロムからの補償について、各領からの被害や貢献度合を各領主に纏めてもらい、中央派の貴族の債権を回収し、辺境派の貴族の債権を破棄し、その上で補償交渉を進めたのよね。」


「うん。一番の被害があったのは都市【ソロム】であり、そこは僕達や商家の皆さんで調整していけばいい。一時的な流通量の低下による経済的な損失は【災害】扱いであり、それに投機していた商家や貴族には泣いてもらおう。

 他家の騎士団に対しては、協定に基づき、その被害に応じた補償をさせてもらう。

 すると、あとは各騎士団の貢献に対する価値をどう評価していくかと行く問題になってきてね。」


 だからこそダルトームとの交渉が重要ですし、その交渉をうまく実施できるオーランドを、ソロム前侯爵(お義父様 )が侯爵家の後継として指名したのですから。


「ダルトーム伯爵は、国全体に大きな混乱を与えないよう、『ソロムの持っていた莫大な資産分が、【災厄】を喰いとめた膨大な価値と同等』という考えで良いのではと云ってくれた。」


 ……夫とダルトーム伯爵は、行き過ぎた商人達や、利益にたかる貴族達が、現物の商品のみならず、権限や将来の商品の価値を売買して、常識を超えて( ・・・・・・)積み上げてきた資産と、「辺境派」の貴族達が、やむにやまれず借り入れていた負債を相殺してしまいました。


 そのため、【王都】や【ソロム】で現在も行われている、交易や商業の中心機能の役割を果たすことができており、【南の国】全体が大きな混乱に見舞われることはありませんでした。

 『社会とは経済の活動であり、お金は経済の血である』とよく言います。それを止めずに済んだことは、自分の夫ながら、とてもすごい事なのだと感じています。


 でも、オーランドは、ずっと、どうして浮かない表情をしているのかしら。

皆さん、寒い日が続きますが、体調管理には気を付けてくださいね。

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