(伯爵令息)ベント・サリウム(2)
少し補足しようか。
かつては、貴族は、領地を持つ貴族と、領地を持たない貴族に大別されていた。
領地を持つ貴族は、領地経営を主宰する役割を持つ。ただ、その範囲や規模が大きい場合、その経営実務を担う役割が必要であり、それが領地を持たない法衣貴族となる。
当然ながら、法衣貴族は広大な領地や権限を持つ、事実上、王家や伯爵家に所属することとなる。
現在はどうか。
そもそも、領地持ちの貴族が、何故、権勢があるのかといえば、土地やそこから生み出される収益に対する課税権を持つからだ。
一方、【王都】周辺の場合は、交易で生み出される収益が莫大である。そのため、交易に係る関税や、商売に係る諸権限は相当な規模になる。そして、それは必ずしも土地に紐づかない。
本来、王家や侯爵家・伯爵家の所領経営に携わる法衣貴族の中で、交易や商工業に関与する、もしくは、主宰する法衣貴族が、領地を持つ子爵・男爵よりも、遥かに大きい権能を有する状況が増えてきた。
こうして、【迷宮】の生み出す益、農業や水産業により生み出す益より、商工業や交易により生み出す益を優先してきた一つの結果が【ソロムの魔獣暴走】であった。
「新しい価値」に眼を向けず、未だ、【迷宮】と土地に拘り続ける輩達には辟易としてきた。(ただ、当然ながら、【迷宮】と土地を維持することが不要とは思ってはいなかった。)
そうした価値観を軽視しすぎて、収益性の高い領域にだけ眼を向けていくのは、極めて危険性が高いことが分かってきた。
そうした時勢を気にせず、ひたすら我が身の権能を考えるウェデル・ワーランドの姿を思い返してみると……
「愚か者は、自分の足元が見えないというが……、果たして俺の足元はどうなっているか。」
権能を失いつつある王家の法衣貴族達が、短絡的な動きをしてくることもあり得る。
【サリウム騎士団】にも、そのことを伝達し、事件への対処を強化してもらう。自分も、一旦、【サリウム】に引き上げることも検討してみることとしよう。
ともあれ、ソロム家の失脚により、【南の国】が大きく揺れ動いていることは、俺にとって良い機会なのだから。
誤字修正ありがとうございます。
明日、明後日は「侯爵家への訪問(1)(2)」を掲載します。
引き続き、よろしくお願いします。