(侯爵令嬢)ジェシカ・ソロム(2)
「実際のところ、どうなの、お嬢。やっぱり、フォルマッテ先生はリード君びいきなの?
私達に云わせると、お嬢もひいきされている側なんだけどね、にひひ。」
昼食の時間。
いつも、「お嬢」はやめてっていうけれど、エーベルは絶対止めないんだろうなあ。ちょっと恥ずかしいんだけど。
エーベルは、ソロム家を支える高位貴族であるロークライ家の長女。
私は侯爵家の者だけれども、母は平民の出であり、血筋からいえば、事実上、エーベルの方が高位なんだと思います。でも、前侯爵の孫で現侯爵の子である私を守るために、エーベルは、私と一緒に【王立学園】に入ってくれて、傍にいてくれています。
そのため、講義でも同じ単位を取ってくれて、いつも連れ添ってくれているけれど、唯一の例外が魔術実習の時間です。
私は、貴族としては平凡な魔力しか持っていません。
また、昨年度の新入生は魔力的に優秀な子が多く、A組は私を除いて高位の魔力持ちの学生で占められていました。貴族の界隈では、私の縁を知っている人が多く、面前で私を揶揄する人はいません。その点でも、エーベルにお世話になっているところなのです。
でも、2年生になって、リード君がこのクラスに編入されると……初級の魔力持ちとして、A組にリード君が加わることになりました。
そして、魔術実習の講義について、個別指導の時間に指導教官としてA組の担任教諭であるフォルマッテ先生が担当してくれることになりました。
先程、エーベルの言った「リード君びいき」といったのは、その事でしょう。
何せ、【災厄】退治の一員だった一流魔術師のフォルマッテ先生は、その愛らしい風貌も相まって、学生のみんなの憧れの的です。
そのフォルマッテ先生が、何気にリード君をひいきしているように見える事も、A組の中でリード君が妬まれる~妬まれているのでしょう~要因なのかも知れません。
「うーん、エーベル。云われてみたら確かにフォルマッテ先生とリード君って、結構、一緒にいる感じだけど……。実際のところ、一緒にフォルマッテ先生の講義を受けているけれど、講義中も全然、和気あいあいな感じじゃないよ。」
「へー、結構、真剣に勉強しているの?」
「うーん。真剣というか……。リード君ってさ。確かに私と同じ初級の魔力持ちだけれど、実際のところ、この国、最年少の【B級探索者】でしょう?」
「それって、理論的な魔術は、現場で使えないと意味がないとか、そんな話するの?」
「ううん、魔術実習っていっても、あくまで学問だから、その内容について、全然「使えなかったら意味がない」なんてこと、リード君は云わないよ。
でも、何かフォルマッテ先生の方が、リード君の発言や対応に、ビクビクしているというか、……そうよね、リード君から質問を受けるときの態度がさ。」
「先生の?」
「うん、質問を受けるというより、指摘を受けるというか。リード君は確かに真剣に聞いているんだけれど、フォルマッテ先生がその回答に、相当、緊張している感じなんだ。」
「ふーん……。云われてみれば、確かにリード君って現役の探索者だもんね。
うちら(ソロム)の連中なんか、探索者なんて考えなしの奴らだみたいな態度だけど、考えてみれば、先生からみれば実践の場で活躍している人からの指摘って感じでも受け取れるんだろうね。先生も、現場のこと、結構、知っているし。」
「まあ……、今は【成金】ワーランドなんて言われているけど……」
「本当、うちら(ソロム)に云われたら、普通、ムカつくだろうねー」
そういいながら、ケラケラとエーベルは笑う。武断派なんて野蛮な感じがするというのが、ソロムをはじめとする中心派に位置する都市貴族の感性でしょう。どちらが拝金主義なのかは、云うまでもありません。
もっとも、それは一般的な思い込み的な部分もある感覚です。ダルトーム派であっても、去年の生徒会長のエミリ先輩なんて、とても凛として美しい方でしたし、級友のマリノ君やモームさんも、A組の中で比べてみても、学問も所作も洗練されています。
その点、リード君は貴族の世界に慣れていない感は非常に強いですけれど、逆に相手がどう高貴な方であっても、あまり態度が変わらないというか、そんな飄然とした感じはあります。
リード・ワーランド。
学園の中では、容姿は特に目立たない中肉中背の男の子。
ダルトーム派のワーランド子爵家の令息ながら妾腹の出ということで、入学時はD組に配属。
実は、「この国、最年少のB級探索者」であり、交遊会時にはエミリ先輩の従士として護衛を務めたとのこと。
【ソロムの魔獣暴走】においては、自領であるワーランド領内の小迷宮の中で幾百もの高位魔石を発見し、それを納めて宝具運用に貢献できた事が評価され、ワーランド家の嫡子となったとのこと。
だから学園内では、それを妬む人たちが「成金ワーランド」と陰口をたたいているけれど、ちょっと考えてみれば分かるとおり、【王立学園】の新入生が、僅か12歳の少年が【災厄】退治に貢献したという途轍もない事が起きたのです。
その結果、ワーランド家において、リード君の先に亡くなっている母が正室であったとされ、ワーランド家の家臣団には、リード君と縁のある文官達が配置されつつあるとのことでした。
いつも、感想や誤字修正等、お世話になっています。
こっそり、お話の方も再開させてもらいました。
基本的には、土日に約2,000字程度のペースで進めていければと思います。
また、以前と変わらず、広告不行届であろう「山もオチも小さめの、無双はしない、マイルドインフレベースなお話」です。
引き続き、よろしくお願いいたします。