領都【ダルトーム】(1)
南歴310年【十ノ月】
本来であれば、王立学園の二学期が始まっている時期ではありますが、【ソロム】の【魔獣暴走】により、とても学園を再開できる状況ではありません。
本来、王立学園1学年の自分としては、【王都】の寮に閉じこもっているはずでした。
なお、実家との関係は、かつてないほど拗れており、とても、帰郷するなんて状況ではありません。
というより、【王都】の法衣貴族により財産を奪われてきた父は、今後、どうするのでしょうか。
というより、そもそもワーランド子爵家はどうなるのでしょうか。
ということで、本来、王立学園1学年の自分としては、【王都】の寮に閉じこもっているはずでした。
重要なところなので、繰り返してみましたが、事態の収束を図ることはできません。
さて、ここは領都【ダルトーム】の城内にある領主館。
僕の目の前にはダルトーム伯爵……御屋形様がいます。
「なあ、リード。お前は【魔獣暴走】鎮圧のため、高位魔石2千個を供出し、宝具【翡翠の大鎧】を操って【魔獣暴走】を鎮圧した。まさに救世の英雄だ。
でもな、だれがどう見ても『おかしい』、あり得ない状況だ。
単刀直入に聞く。
ここだけの話だ。お前、何を企んでいる。」
僕は、今、伯爵の居宅の来賓用の部屋に居ます。
そして、何と、御屋形様と2人で話をしています。
御屋形様は、目を細め、僕を睨みつけています。
それは単なる表情ではなく、僕の感情、胆力、知力、そして魔力、その振れ幅等と見極めようとしているのでしょう。
貴族、しかも当主級の者となると、上位の魔力を持ち、それに付随する諸々を見極める力を持っています。
少し、ため息をついてしましました。
「御屋形様、申し上げます。僕は貴族の子で、持っている才能は『平凡』です。とても、当主の器ではなく、幼いころから軽々しく扱われてきました。」
そもそも、僕は【迷宮】での出会いが縁で姫様達と出会い、探索者としてお付き合いしていました。
「秋の交遊会」では、例年通り、その期間前後での人手不足により、僕は臨時官吏兼従士として駆り出されてしまいました。
その交遊会が終了し、王立学園の新学期がはじまろうとする頃、【ソロム】において、前例のない【魔獣暴走】がはじまり、その対応に追われていました。諸般の状況により、世界を見回しても、もっとも忙しかった者の一人だったと思います。