【オールラウンダー】アーチボルト・グレイン(1)
正直、家庭教師の依頼は楽だ。
週に1回、領主家の次男坊に魔法を教えることと、あとは月に幾度かの【協会】からの依頼を捌くことで十分だ。
俺もすでに40歳になる。
探索者としては、成功した部類だろう。既にそこそこ金も貯めた。今のような仕事量でも金は貯まっていく。若い嫁さんみつけて、家でも買おうかなと思っているが、面倒くさいのでそこまではしていない。
魔術を教えている領主家の次男坊リードは、これといった特徴のない容姿に、これまた特徴のない魔力量しかもたない貴族だ。13歳になったら貴族たちの子弟が集う王都の学園であっても、いわゆる平均レベルであろう。
風と火の初級魔術が使えて、魔力の一部を身体強化に充てる方法を身に付ければ、王都であろうと領主家であろうと、一定の仕事はできるだろう。さすがに、妾腹の子ということで家自体に関わる人生はないと思っていた方が現実的だが、平凡とはいえ「平民とは異なり、魔術も武術も使えるようになる」なるのだから、人生としては悪くない。
1か月間、寝込んでいたらしいが~それもよくあることだ、流行病で貴族の子ですら死ぬことなんて~ここ3か月は、どうにも不可思議なことに領主家の敷地内にある小規模迷宮の掃除に拘っているらしい。
ある意味、剣術でいえば「素振り」の延長みたいなものだろうか。
ひどく単調で、基本ではあるがやりたい部類の訓練ではない。埃っぽい迷宮の中で、下等とはいえ魔獣と相対し、それを退治したところで暗灰色のあまり価値のない魔石だ。鼠とはいえ魔獣に噛み付かれれば死に至る可能性を考えると、わざわざ、この規模の迷宮に入り込む必要はない。
だから、強いて言うなら、修業としてなら理解できる。
魔術はどんなに使っても、その効果は修業を理由に向上することはない。でも、戦いの中で如何に円滑で効果的に術を行使するかという視点でいえば、只々、練習量と経験量に尽きる。
その意味では、「風と火の初級魔術が使えて、魔力の一部を身体強化に充てる方法を身に付け」つつある。俺が指導しなくても、俺の術を行使する様を診て、少しでも術を身に付けようとして、それが着実に進んでいるのだから、俺としても好都合だ。
先日、リードは小規模迷宮の奥にある転移陣を見つけた。
毎日、小規模迷宮に入って、かたっぱしから魔獣を退治しているせいか、魔獣の気配も一切ない。
転移陣は、シンプルな単なる移動用の陣であった。
2人で転移してみると、そこは石壁で区切られたセーフティゾーンであった。
人が入った形跡もなく~もし入っていれば、ワーランド家からの探索ルートが確立されているであろう~どこかの大迷宮の外れルートからの転移陣に相違なかった。