【災厄】多頭大蛇(10)
魔獣すら死滅させる毒素に覆われた空間。
しかも、多頭大蛇は、【翡翠の大鎧】を攻撃対象として認識している状況。
ほんの少しでも空気を肺に吸い込めば一貫の終わり。肌や網膜からの毒素の侵入の危険性も高い。
『風よ……』
僅かだけでも、機体内の空気を身に纏うイメージで魔術を行使し、安全区画に向けて、僕は駆け出した。
一瞬、周りを見る。長槍班が踏み込み、多頭大蛇を牽制。
敵愾心の咆哮が響くが、騎士達の牽制による、その隙をついて、回廊を駆け抜ける。どうにも、【翡翠の大鎧】から飛び出た物質への一瞬の注意であって、多頭大蛇の敵愾心自体は【翡翠の大鎧】や長槍を扱う騎士達に向いている様子。
回廊は、壁に塗りこまれている細かな石が発光を続け、回廊内を照らしている。
瘴気が薄くなっている。きちんと見えている。大丈夫。
安全区画に飛び込む。
騎士の一人が【強化鎧】を外した状況で、僕の身を抱え、転移魔法陣まで運んでくれた。
呼吸ができる。その姿を見て、僕もとっさに大きく息を吐く。
僕は魔法陣に触れて、魔力を通す。
【南の大迷宮】20階層への転移。
転移先で、騎士に囲まれ、治癒術師に囲まれる。
「リードさん、しっかりして。すぐ【洗浄】するから!」
二コラ嬢の声。【南の大迷宮】に誂えた救護室に運ばれるのであろう。
その辺りから意識が薄くなってきた。