【災厄】多頭大蛇(1)
ソロムでの攻防 14日目
【南の大迷宮】にて、【翡翠の大鎧】を小柄な女性が操縦しています。
「鬼! リードさんの鬼!!!」
正直、僕も疲れています。【翡翠の大鎧】の挙動を端から見ながら、前後の移動と左右の腕の振りが円滑になるよう指示します。
できるまで、やってもらう。
いや、はやく、できてくれ(涙)
今の操縦者は、ニコル・フォルマッテ嬢。
フォルマッテ子爵家の令嬢で、王都の魔術研究所の研究員兼王立学園講師。
上級魔術師で、小柄で、運動神経の良い人を、【王家】に選び出してもらい、いざというとき僕の代替を務めてもらう人です。
当然、【王家】の息のかかったスパイのようなところもあるのですが、万が一に備え、そんなことは気にしていられません。
これまで、試しに二度、【ソロム】で【東雲の霧玉】を操作してもらってみましたが、緊張のため調子を崩し、数十分で作業を交代しています。仮に、僕が倒れたとしたら、おそらく根性で何とか一連の役割を果たすくらいで思っていた方が良さそうです。
「リード君、ちょっといいかい?」
騎士ウォードさんから声がかかりました。少し表情が優れない様子。何かあったのか……
【翡翠の大鎧】の動作確認は、ニコル嬢にお任せして、騎士ウォードとともに本部に向かいます。
◇◇◇◇
「彼是、2週間近く経過し、少し魔獣群の圧力が減少に転じた感じがする。
今後、想定されるのは、このまま【魔獣暴走】が治まってくるのか、最終局目で【災厄】級が現れるため、周囲の魔獣が生存できない状況なのか、いずれかだと思われる。」
「御屋形様、これだけの規模の【魔獣暴走】であれば……」
「ああ、『このまま治まる』は希望的な観測で、実際には、数段も強化された最深部の階層主級の魔獣が迫ってきているであろうて。
今、攻撃の合間をぬって、諜報部隊に1階層下の21階層にて、監視活動をしてもらっている。」