ソロム攻防戦(9)
「衝撃については、事前の実験のとおり、一瞬であったが、その後の回廊内の空気の乱れはやはりひどく、金糸雀は全滅、【強化鎧】の気密性の高さで騎士は一定の行動ができたが、やはり、かなり有毒な気体が階層全体を覆うことになる。」
みんなの認識も共有できている様子で、伯爵の言に頷いています。
「状況を評価するためには、今回の爆発でどれだけ魔獣群に被害を与えることができたか、現在在留している有毒な気体が下層から上がってくる魔獣群にどれだけ影響を及ぼすか、【迷宮】の空気の自浄作用がどれくらいか、それを見極めていく必要がある。
【東雲の霧玉】の起動から、そうだな……「粉塵爆破」、そして【迷宮】による空気清浄までの状況推移が短ければ短いほど、【ソロム】の防衛が円滑にできることになる。」
「もともと、想定していた方法はどうするのですか。」
「爆発事故が発生しないことを期待して、ひたすら【東雲の霧玉】を使うのは……」
「引火させない、というのも考えられますが、それは霧の濃度が低い……当初想定より、魔獣群が弱らない、ということです。」
「濃霧の中、少しは動きが鈍った感触はあります。本当なら、この階層で倒れてくれたらいいのですが、正直、【鑑定】での感じでは、もっと濃度を上げないと、地上の防衛線を維持できるほど、弱まらないかも。」
「魔獣が自分を活性化させるため、魔力循環を強化し、その際に溢れた魔力が火を起こしている……」
「【東雲の霧玉】を使うのではなく、従前のとおり、騎士団が全滅してでも、【強化鎧】で魔獣群と相対するということも……」
あくまで一つの考え方だが、貴族の誇りと騎士の矜持を踏まえると、様々な意見があります。
伯爵が軽く手を挙げて、騎士の発言を止めました。
「【南の大迷宮】での【魔獣暴走】であれば、国への忠義を果たす必要もあるかもしれないが。そうした忠義は、【ソロム】の騎士団に任せるつもりだ。
今回、王から【東雲の霧玉】と【翡翠の大鎧】を預かったのは、地上への負荷をできるだけ低下させるためだ。【王家】も【ソロム】も自分達のために、【ダルトーム】の騎士団を犬死させようなどとは云わんさ。まあ、心の片隅では、そんな虫の良い思いを持っている可能性は否定しない。
ただ、【ソロム】とは云え、【南の国】の国民であり、我々の同朋だ。民の生命を守るのが貴族と騎士の務め。全力を尽くそうではないか。」