ソロム攻防戦(8)
幾度も周囲から釘を刺され、最前線まで進むことを伯爵は諦めたようです。
ただ、この人こそ騎士に対し命を懸けた戦いを指示し、騎士達はこの人の指示に命を懸けるのです。
様々な報告を聞きながら、状況の整理を進めています。
1時間余りで、【東雲の霧玉】により、相当量の粉塵を送り込むことができます。
ただ、魔獣に有効となるこの濃度だと、赤褐牛鬼の持つ火系の魔力に引火、爆発し、騎士達が有害粉塵と一酸化炭素の混じった汚染された空気に晒されてしまうことになります。
「不意に爆発が起きると、こちらの対応も難しくなるか……」
先程は、生き残った牛鬼を撃退し、回廊の先の状況を把握していない状況ですが、空気汚染の度合いをみて、速やかに全員が退避しました。それでも、鎧越しに7人が汚染された空気を少量吸い込み、現在、治療を受けている状況です。
「ならば、いっその事、こちらのタイミングで爆発を誘発させるか。」
「また、御屋形様、無茶なことを。そんな事をすれば余計に……」
「いや、速やかに退避をするのは、そう難しいことではない。爆発も一瞬のみだったと聞く。はじめから爆発のタイミングが分かっていれば、一時的に呼吸を止めさえすれば、空気制御を仕切れなくても、有毒な空気を吸い込むリスクはない。」
「離脱手順の見直しを行ってみるか。」
「【ソロム】側のセーフティエリアがいつ回復するか。先の強硬偵察だと、こちらへの敵愾心がなくなり、魔獣群が再び形振り構わず地上を目指し始めるのに小一時間かかった。そろそろ、偵察の準備に入ってみよう。」
どうにも、【ソロム】側のセーフティエリアに再度布陣するタイミングで、今度は運用方法の見直しを考えている様子です。騎士団幹部の意見を聞き、ダルトーム伯爵が要点を整理していました。
「もともと、【東雲の霧玉】の霧をずっと魔獣群に吸わせて弱らせることを想定していた。
要点は2点で、どれだけ魔獣群が弱体化するか、途中で粉塵への引火による事故が生じないか、ということだった。
ただ、赤褐牛鬼は強力な火属性を持つ魔獣であり、その魔力循環が激しいときに発火させる個体がいる可能性があった。厳に初回の攻防で実際に爆発が生じた。
衝撃については、事前の実験のとおり、一瞬であったが、その後の回廊内の空気の乱れはやはりひどく、金糸雀は全滅……」




