料理という名の闘い!
幸いなことに調理器具自体は俺が元いた世界とは何ら変わりないものだった。
多少古臭い気もするが、これもまた年代物と考えれば味がある。
材料を前に精神を統一させ、俺は余計な雑念を払おうと努めた。
今大事なのは俺の料理を待っている客を喜ばせること。それだけだ。
俺は無心になり、甘味を作ることだけに全力を尽くした。
パンケーキの焼き加減、厚み、枚数、デコレーション。
その全てにこだわる。何故なら、客(白玉)を喜ばせたいからだ。
市販のペラペラの薄く小さなパンケーキではダメだ。できる限り厚く、けれど食べやすさを考慮して作らねばならぬ。
十数分後、ついに品は完成した。
「召し上がれ!」
客は白玉に喫茶店の店主とその妻。
この三人が俺の味を評するのだ。
白い皿に盛りつけられた三段重ねのパンケーキ。
頭頂部には生クリームを絞ってデコレーションし、蜂蜜を塗り、ヘタを取った苺を添えてある。
白玉はフォークとナイフを使い、生地を切り分ける。
断面は厚みがあり、フォークの上でプルプルと揺れている。弾力がある証拠だ。
口の中に放り込まれるパンケーキ。
三人は一瞬の間の後、頬を染めて言った。
「美味しい!!」
「そうか」
「不動くんは食べないの?」
「俺は食わん」
「こんなに美味しいのに・・・・・・」
「しばらく仮眠する。お前たちが食べ終わったら皿を片付けるから心配はするな」
残念そうに言った白玉に背を向け、俺は二階の階段を上がる。
決して顔には出すまいが、心の中では安堵していた。