異世界への目覚め
目の中に飛び込んできたのは眩い光だった。
それから青い空に白い雲。
間違いない。これはあの世とは違う。
視線を下にしてみると草と土が見えた。
指から順に全身が動くかどうかを確かめる。
どうやら全て問題はないらしい。
だが、安心するのはまだ早い。
ここがどこでどんな世界なのかはわかっていないのだ。
別世界なのは間違いないだろうが、それにしても酷似している。
空も草も土も空気も元の世界と変わらない。
起き上がってみると、俺は草原にいることがわかった。
自分の手を見つめ変わっていないことを確かめる。
何か鏡のようなものがあれば全身像を掴むことができるのだが。
辺りを見渡すと湖が見えた。
そこまで歩いていき、水面に顔を映す。
それは紛れもなく自分の顔と体であった。
「人間が異世界へ転生される時は姿形が欲望により変化すると聞いたことがあるが、俺は何の変化もないらしい」
拳を湖に放ってみると衝撃波を放出し、ふたつに割れる。
どうやら力もそのままのようだ。本当に何も変わっていない。俺は首を傾げた。
「これでは修行にならないのではないか」
その時、遠くから例の声が聞こえてきた。
「きゃああああああ! 誰か助けてぇ!!」
声のする方へ駆けていくと、赤い頭巾を被った女のガキが酒瓶とドーナツの入った籠を持ちながら何物かから逃げているところだった。どうやら何かに追いかけられているらしい。
「助けてぇ!」
女のガキは俺に抱きつくと素早く後ろに回ってしまった。
プルプルと小鹿のように震えているガキに俺は告げた。
「少し俺から離れて隠れろ。戦闘の邪魔になる」
「は、はいぃ!」
涙目で怯えながらもガキは木の影に隠れた。
数多くの樹木が生えた一本道。
その先に何かがいる。
徐々に黒い影が姿を現した。
白く大きな蜘蛛の胴体と長い手足の化け物。但し顔は女だった。
妖怪蜘蛛女は耳まで裂けた口を開き、俺に言った。
「アンタ見慣れない顔だねえ。どこの誰だい」
「俺は怒りをもって人を救いに導く不動仁王だ! 蜘蛛のガキ、往生させてやる!」