謎の声
「――けて」
声が聞こえる。
女のガキの声だ。
「誰か助けてぇ!!」
助けを求めている女の声だ。
何やら身の危険が迫っているらしい。
できることならば救いに行きたい。
だが、俺に何ができよう。
俺は竜との戦闘に敗れ、魂のみの存在になったはずだ。
恐らくはこのまま直行であの世に向かい、地獄か天国かのどちらかで暮らす羽目になる。
現世に戻れぬというのは実に辛いものだ。
どれだけガキ共が助けを求めても助けられぬ。
極悪人になったガキ共を往生させ地獄へ送ることもできぬ。
永遠に退屈な時間を何もせずに過ごすことになる。
思案はできるが何も見えず何も触れず、喋ることもできない。
ただひたすら暗い闇が俺の前に広がっている。
不思議なものだ。現世では夢を見ることになかった俺が、あの世の狭間でこうして女のガキが助けを求めている夢を見ることになろうとは。
もっとも、音だけの夢ではあるが。
「目を開けてごらん、不動君。暗いのは君が目を閉じているからだよ」
ふと、聞き覚えのある声がした。俺の師匠の声だ。
武術の腕前は天才だったが人格に問題があった。
だから俺は彼をそこまで尊敬はしていない。
その彼が話しかけてくるとは、不思議なこともあったものだ。
「冗談はやめろ。俺は魂だけの存在になったのだ。景色など見えん。音は聞こえるが」
「おかしいな。私には君は五体満足に見えるけれど」
「いい加減にしろ。お前の冗談は笑えぬ」
「まだ気づいていないのかね。君は往生はしていない」
「何だと!? だが俺は竜の光線に当たって――」
「命中する直前に君は言わなかったかね。願いが叶うなら弱点を克服したいと。
その希望に応えて光線が当たる寸前に君を別世界に瞬間移動させたんだよ」
にわかには信じられん。だが師匠は嘘を吐くような男ではない。
「そちらの世界で頑張って弱点を克服してきたまえ。まあ大変な修行だとは思うけど。正直、羨ましいよ。できれば私が変わりたいくらいだよ」
「ならそうしてくれ。俺は今すぐ現世に戻り竜のガキを往生させねばならん」
「今の君にその力はない」
先ほどの飄々とした声とは異なる、威厳溢れる冷徹な声だった。
覆しようのない事実に俺は二の句を告げることができなかった。
「竜のことなら心配ない。私が世界の時間を全て停止させてある。
だから竜が暴れ出すことはないが、正直なところもって1年だろう。
だから私は君のいる世界に行きたくても行けないし、君も修行が終わるまでは帰れない。私にとっては天国だが、君にとっては地獄だろう。
それでは健闘を祈る。さあ、目を開けて! 修行開始だ!」
それを最後に師匠の声は途切れ、後には長い沈黙だけが残った。
本当かどうか試してみよう。
夢から目覚めるような感覚で目を開ける――
声だけですがスターが登場しました。