表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不動仁王は、女に弱い。  作者: モンブラン博士
異世界への旅立ち編
1/18

俺の名は不動仁王!

俺はあの日が訪れるまでいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。

腕立てやスクワットをして、滝に打たれ集中力と精神を研ぎ澄ませていた。

身体と精神を追い込み徹底的に鍛え上げる修行の日々。

何の為にそのようなことをする必要があるのか?

答えは簡単だ。

お前たちを守る為だ。



「ガキ共、往生させてやるッ!」


俺はあの日、いつものように現場に赴いた。

俺の背後には無数の盾を構えた警官や一般のガキ(人間)共がいた。

今度の相手は機関銃とやらで武装した強盗共だ。

中には多数の人質がいることも既に把握している。

現状を見て、俺は嘆息した。

そして目を瞑り、精神を集中させてから再び開く。


「ガキ共、往生させてやるッ!」


無防備で歩を進めていく俺に強盗の一人が銃口を構える。


「テメェ、それ以上近づくな」

「この俺に指図をしていいのは俺だけだ。異論は許さん」


俺が当然のことを口にすると、男は銃の引き金を引いた。

発射される弾。俺にはその軌道が完璧に見えた。

掴まえてもいいと思ったが、それでは脅しにならない。

ワザと己の身体で受けることにした。

無数に発射される弾は俺の身体に着弾すると同時に凹み、パラパラと地面に落ちていく。

俺は手を広げ、何の抵抗もせずに全ての弾を受け切った。

カチカチという弾切れの虚しい音が鳴った。

俺は再び弾を装填しようとする男の首を掴まえ、枯れ木のようにヘシ折り、往生させた。

男の死体を警官に放り投げ、俺は再び歩を進めていく。

自動ドアを潜り抜け中に入ると、ガムテープで口を押えられ身体をロープで巻かれ動きを封じられた十数人の人質の姿が目に入った。

俺は息を吸い込み、強盗共に告げた。


「人質を解放して往生されるか、今すぐに往生されるかどちらか選べ」


自分で言うのもなんだが、俺は優しい男だ。

どんな相手に対しても選択の余地は与えてやる。

強盗共の顔がみるみる青ざめていく。

物事を悩む人間は大抵そのような顔をするものだ。

どうした、まだ決めるのに時間がかかるのか。

俺は苛立ちを覚えた。


「さっさと決めんか!」


近くにいた強盗の腹を正拳突きで貫き往生させつつ、俺は残りの者に問う。


「嫌だぁ! 死にたくねぇ!」

「俺たちは生き残って人生を満喫したいんだ!」

「お前たちの事情など知ったことか」


わめている2人の男の強盗の後頭部を掴み、リーダーと思える男に見せびらかす。


「仲間の命が惜しければさっさと答えを言え。拒否は認めん」


「俺の答えはこうだッ!」


強盗団の頭は手榴弾を見舞った。

丁寧にピンを抜いている。どうやら仲間ごと俺を吹き飛ばし、自滅するつもりらしい。

投げられた爆弾は俺にとっては超スローボールのようにゆっくりと迫ってくる。

このまま爆発させては人質に危害が及ぶ。それは俺の流儀ではない。

唾を爆弾に吐きかけ、コーティングして爆発を防ぐ。情けなく地面に落ちた不発弾は俺の唾で覆われ、さながらスノードームのようだ。

掴んでいる強盗ふたりの頭部をトマトの如く握り潰し、強盗の親玉に接近する。

奴は震えていた。懸命な抵抗のつもりなのだろうか、銃を撃つが俺の身体には効果はない。弾切れを起こしたことで遠距離ようの武器は潰した。


「うわあああああああッ」


悲鳴に近い声を上げ、ナイフで俺の腹を突き刺すがナイフは腹に触れた途端にボロボロと崩れ出した。人間の開発した武器は俺には効かん。


「約束通り往生させてやる!」


強盗の顎に蹴りを見舞って吹き飛ばす。

天井を突き破り、更に高く上昇していく。

奴の身体は幾度も天井を突き破って、青空へと飛び出した。

恐らく全身の骨は砕け往生されていると思うが、ここで追撃を止めるほど俺は甘くはない。人型の穴の開いた天に向かって俺は跳躍した。

一瞬で追いつき、男の腰部分を掴みバックドロップの体勢で急降下していく。


「不動俱利伽羅落とし!」


渾身の力で銀行の床に男の頭部を叩きつけた。結果として男の身体は跡形も残さず消え去ってしまい、こうして事件は解決した。

これで今日の仕事は終わった。


「不動仁王様、ありがとうございます!」


警官に礼を言われるが、俺は何とも思わない。

俺にとってガキ共を往生させるのは当然のことだからだ。

家に帰って飯を食べ、明日に備えるとしよう。

この時まではいつもの日常が続くものだと思っていた。

そう、ヤツが現れるまでは。


事件を解決した後、俺は自宅のアパートに戻り、寝ていた。

夢などは見ない。

ただ疲れをとるだけだ。

何時間寝ていただろうか?

不意に強烈な殺気を覚え、目を覚ます。

部屋を見渡すが誰もいない。

どうやら室内ではないらしい。

もしやと思い、窓を開け、外を覗いてみると、俺は目を見開いた。


「馬鹿な・・・・・・」


信じられぬ。あり得ぬ。

俺は目の前の光景に思わず己の目を疑った。

遥か遠くの空に、ヤツがいた。

緑色の鱗を持ち、蝙蝠の如き翼、トカゲのような胴体に頭には二本の角を生やした竜。英語で言えばドラゴンだ。

竜は中世の時代には確かに存在した。だが、俺が全て往生させていたはず。

何故、この21世紀に再び現れたのだ。生き残りだろうか。

否、そんなことはどうでもいい。

問題はヤツの大きさが三百メートルはあり、放置しておけば大惨事を招くということだ。

俺はすぐさま空を飛び、ヤツを追いかけた。


「ドラゴンのガキ、お前を往生させてやるッ」

「ギャオオオオオオッ」


怪獣の如き咆哮を放ち、俺を威嚇するが、その程度で俺は怯まぬ。

空中で距離を詰め、腹に鉄拳を見舞う。

衝撃波がヤツの全身に伝わり、一瞬動きが止まる。

だが、すぐに口を開け火炎を発射した。


「甘いッ」


拳圧で炎を分裂させて無効化した俺はヤツの顎に蹴りを炸裂させる。

巨体を反転させて悶絶する竜だが、往生には至らず。

ならばと俺は素早く背後に回り、尾を掴む。

それから振り回そうと試みるが――


「重いッ。腕が痺れそうだ」


奴はこれまで相対したどの敵よりも重量があった。

この俺がまさか弱音を吐くなど想定外だ。

だが、ここで尾を放せばヤツは日本中を破壊する。

そのようなことは俺が許さぬ。

全身全霊で地面へ叩きつけたが、勢いが足りなかったのか奴は平然と立ち上がってくる。森の木々が竜の衝突の影響で何本も折れてしまった。

翼を展開し再び上昇してくる。

俺はカウンターで頭突きを炸裂させた。

しかし竜は額から緑の血を流した程度でまた襲い掛かってくる。

奴の爪による攻撃を受け、俺は痛みを覚えた。

見ると胸が爪で抉れ、血が噴き出しているではないか。


「何だと!?」


この瞬間、俺は確信した。

ヤツは単なるドラゴンではない。

並のドラゴンが俺に傷を負わせられるはずがないのだ。

額から汗が流れる。

間違いなく、これまで出会った中で最大の敵。

だが俺は決して引かぬ。

何故なら、俺の背後には守るべきもの達がいるからだ。

負傷は深い。だが、それがどうしたというのだ。

俺は残る気力の全てを放出して、竜に突撃した。

狙うは鼻だ。

いかなる生命体も鼻は急所である。

そこを叩けば動きは停止する。

だが、俺にひとつ誤算があったとすれば、竜が白く尖った歯と蛇に似た長い舌が見える口を開いたことだった。赤い口の奥からはエネルギーが凝縮されていく様が映し出された。

俺は目標を変更し自ら口の中に飛び込み、奴の舌に手刀を浴びせた。

舌から噴き出される血が俺の身体にかかるが、そんなことは問題ではない。

突き付けられたのは俺の全パワーを使った攻撃でさえも大したダメージを与えることができないという非情な現実だった。

ヤツの口の奥を見ると俺に完璧に標準を合わせたエネルギーの塊が増大していくのがわかった。

舌にめり込んだ腕は引き抜くことはできない。

仮にできたとしても俺はしない。

ここで引いてはヤツに与えた僅かなダメージさえも無になるからだ。

かくなる上はと最後に残された力で仲間にテレパシーを送る。


【お前たち、どんなことがあってもこの竜を往生させろ。人々を守れ】


仲間から次々に声が聞こえてくる。だが、俺に答える気力は無い。

次の瞬間、俺は純白の光に包まれた。

痛みは無い。だが足や腕が粒子となり分解されていく感覚はあった。

これが往生されるということか。

残念だ。

もしも願いが叶うのならば、せめて最後に俺の弱点を克服したかった。

どれほど修行を積んでも遂に克服できなかった俺の弱点を――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ