令嬢レベル1-7
「寂しいのは嫌ですよね。私も大嫌いです」
「先生も?」
「はい。先生も寂しいと泣いちゃいますよ」
とんとん、と。
言葉とは裏腹にあやすような手つき。
ポロリと、涙がこぼれるともうダメで。
しがみついて声を殺して泣く私を先生はしっかりと抱きしめてくれた。
「というわけで、私も寂しいのが嫌なので私をカレディ嬢の先生にしてくれませんか?」
「わたくしの?」
先生は泣いても叱らなかった。
それどころか頭を撫でてくれた。
「ええ。それに実は私すごく困ってまして……カレディ嬢はご存知かもしれませんが、今私は王子様やジャン君のような将来有望な若者の先生をしているんですけど……」
それは知ってる。そっきんこうほと言うものにジャンお兄様が選ばれたから、お兄様は学園入学前の現在お城でお勉強会をしているのだ。
「王子様の先生ですよ?間違いは許されないのです。ですのでカレディ嬢で先生の練習をさせて頂きたいのです」
それは願ってもない話だった。
ドーリィはどうしても嫌で。違う先生が欲しかった。
こんな、優しい先生が。
先生の膝を降りてすっと立って、腰をいっぱい曲げて頭を下げる。
「是非わたくしの方からお願いさせてください。えっと…先生の知識を分け与えられる栄誉を、わたくしにも分けてくださいな」
「……ええ。私はロールディン・リオスです。よろしくお願いしますね、私の可愛いレディ」
頭を撫でられて顔をあげればにこりと笑いあう。
「さて、今日は殿下の授業がありません。ですので今日はみっちりと教えこみましょうかね……」
ん?リオス先生の様子がおかしいぞ……
優しい紫の目の光が消えた。
纏う空気も柔らかなものから……ドーリィ女史とはまた違う恐怖を感じるものへと変化した。
あれ?
「ああ、ジャン君。君もですよ。君、カレディ嬢に間違いを教えましたね……」
「えっ、ごめんなさい先生」
「せ、先生、わたくしが間違えただけかも」
「生徒の間違いはすなわち教師の教え方が悪いのです。ジャン君が悪いと言うことはすなわち私が悪い」
思わず後ずさり、兄様にぶつかる。
兄妹で手を取り合ってプルプル震えながら、何故か巨大に見える先生を見上げる。
「ーーーーーさあ、授業のお時間ですよ」
……わたくし、選択を間違えたかもしれません。
それでもリオス先生に出逢えたのは最高の出来事でしたわ。




