おまけ 幸せな家族
【????】
「坊ちゃん!坊ちゃん!」
必死に長男を探す執事。
けれどまだ五歳児の長男はその体の小ささを上手く使って隠れていた。
まだ、五歳。
身体を動かして遊びたい盛りなのだ。
少年は勉強が大嫌いで、遊び回るのが大好きだった。
だから何とかやり過ごして、庭でいっぱい遊びたい。
そう企む少年の身体は突然ふわりと抱き上げられた。
「ははうえ」
「こんなところに隠れていたのね、フェル」
「はなしてください。ぼく、あそびたいんです」
真剣に少年が訴えかけると、母親は少年を抱いたまま首を傾げた。
「そう、残念ね。フェルのお勉強が終わったら一緒にお茶を飲もうと思っていたのに」
「!!」
その言葉を聞いて少年がビクッと反応を示した。
いつも忙しい母親。そんな母親とゆっくりおしゃべりできて、一緒に遊んで貰えて、更には母が作った甘いお菓子まで食べさせてもらえる。
母が言うお茶を飲もう。とはそういう少年の大好きなことが目一杯詰まった時間なのだ。
「……ははうえ、はなしてください。ぼく、じゅぎょうがあるんです」
少年はコロッとつられた。一瞬も迷わず勉強を取った。
そんな少年に笑みを零すと、母親は少年を抱いたまま移動を始めた。
「もう少し母に抱かれてなさい。連れてってあげるわ」
「ありがとうかあさま!」
仲良く会話をして移動する親子。それは確かに幸せな二人の光景だった。
「フェルがまた逃げ出したって?」
「ええ。フェルはどうやら貴方に似たようね」
「いや、世の中の子供の大半は勉強が嫌いだと思うよ」
「そうなのかしら?」
「そうだよ。私だって好きな子にカッコつけるために頑張ってたんだからね」
「そうなんですの?」
「そうなんだよ」
ふふふと笑って差し出されたグラスを受け取る。するとそこにはすぐに透明なワインがそそがれた。グラスを傾けてワインの動き、色を楽しんでから……ゆっくりと一口飲む。
む、このワインは少し辛いようだ。
「まあ、私は特殊だったかもしれないわね」
「確実に特殊だよ。兄上が言ってたよ、リルが受けた教育は王妃教育より高度だったって。父上もやり過ぎたと反省してたし」
「あらあら」
ふふふと笑ってヴィと共にワイン嗜む。と言っても、辛いのであまり飲むことは出来てないけれども。
「それで、王家から打診が来たよ。第一王子の息子の教育係になってくれないかと」
「あらあら、裏がありそうねえ。公妾のお話を断ったばかりですし」
「うん、だから断っておいたよ」
「ありがとう旦那様」
グラスを置いて不意に立ち上がったヴィは私を立たせる。
私もグラスを置いてヴィの手を取る。
そして促された先は寝室だった。
『二人目の兆しがあるので、ってね。というわけでフェルに弟か妹を作れるよう頑張ろうか』
耳元で囁かれる言葉に笑って頷いて。
ヴィと共に寝室へと入っていった。
幸せな結婚をして
幸せな夫婦生活おくって。
そしてこれからも私は幸せな家族を目指していく。
例えそこにレベルアップが無くても、ね。




