令嬢レベル3-4
「やあ、迎えに来たよリル」
「ヴィ?ありがとう?」
翌日、留学準備で忙しいはずのヴィが迎えの馬車にわざわざ乗ってきた。
ニコニコ笑っているようだけれど、わかる。ヴィの背後に怒りの炎が燃えているのが。ドイル様が迎えに行くとかなんか面倒な事を言ったのかなあと当たりをつけつつ馬車に乗り込むが、わざわざ彼に他の男のことを聞くのもきっと嫌がられるだろうから気になるが、聞かない。
「ヴィのお迎えなんて贅沢ね」
「お姫様がお望みなら毎日来るよ?」
「ダメよ、私は王子様の勤勉なところが一番好きだもの」
「リルがそう言うから僕は勉強を頑張れるよ」
と言いながら勉強があまり好きじゃないヴィはわざとらしく顔に手を当ててため息をついた。そんなヴィを見てクスクスと笑う。
「あー、まあ一応言っとくけどね。恐らくリルも予測してただろうけどドイル兄上がリルとの婚約を僕から自分に移動させろと言ってきたよ」
「あらまあ。困ったわねえ、ザキエラ様はなんて?」
「『リルチェルは優秀だから彼女に望まない結婚を強いる場合、相手はロックだ。と言ってもビシューが見つけてきた有望な人物だ。彼女に関してはビシューに任せる』って言い切ってたよ。ドイル兄上はそれでもグズグズ言ってたし、ロック兄上はドイル兄上の目の前で弟の婚約者を奪うようなゲスな趣味は無いですって言ってたけど」
想像以上に頭がおかしい人かもしれない、ドイル様。
私は浮気をする人も不倫をする人も愛人を持つ人も総じて嫌いだが、決まった相手が居るとわかっていながら誘いをかける人も理解できない。
と、言うか恋愛婚約と言っているのに無理やり鞍替えさせようとしてるとか…無いわー。
「一応両親もロック兄上も僕たちの婚約には大賛成をしてくれているからドイル兄上の入り込む隙は無い。でも、留学で何を学んだんだか。兄上が何をし出すか分からないから気をつけてね…」
「はい。なるべくヴィかエリュー様の傍に居ますね」
「うん、そうして。身内が迷惑かけてごめんね」
「私にとっても将来は義理の兄ですから。お気になさらずに」
「将来の義兄…」
何がツボったのか分からないけれど、ヴィは嬉しそうに笑った。そんな彼を見て私も嬉しくなった。
「やあ、リルチェル嬢。よく来てくれたね」
「…ごきげんよう、ドイルお義兄様」
「気安くドイルって呼んでくれ」
「いえ、私兄弟がいないので義兄に憧れているので」
「…そうか、俺に憧れてるのか」
嬉しそうに笑うけどドイルじゃない。兄という存在だと突っ込みたい。
ヴィの予測通りドイル様は玄関で私を待ち構えていた。
ヴィは私の腰に手を回して親密アピールをしつつも、とりあえず私の好きなようにさせてくれる。私の口から脈ナシって思わせて諦めさせたいのだろうけど……すごいわ、話が通じないわ。
「リルチェルは今日は何を学びに来たんだい?」
「本日は旧ロシャン語とエルドラの礼儀作法とスワトロの最近の北方の出来事ですわね」
「……そんなことを学ぶ必要、あるか?社交界で使うことはほとんど無いだろう」
「将来ヴィとロシャンに行った時に旧ロシャン文明に触れる可能性があるので」
まあ、半分私と老先生の趣味だけどね。旧ロシャン語は私だけが習っている。趣味だけど、ヴィは語学が出来るけど苦手だから私が彼の穴を埋めるのだ。
昨日のレベルアップで知識の容量が広がったので、今日の授業をとても楽しみにしているのだ。色々とすんなり身についてくれるだろう。
「そこまで勉強をさせるなんて何を考えてるビシュー。ロシャンの学園でもそこまでの授業はやらなかったぞ」
「兄上はやらなかったかもしれませんが、専攻授業ではありますよね?授業を受ける機会があるということは、覚えておいて損は無いはずです」
あら、授業でとることが出来るのか。じゃあビシューも習っておけば良かったのに。と思うも彼は発音が本当に苦手だからそれよりも別の知識を優先したのだろう。
「だが、父上もお前も彼女に勉強を詰め込みすぎだ!俺は彼女が苦労するのを見ていられない!」
えっと…楽しんでやってるんですけど……




