令嬢レベル2-8
「リルチェル、ドレスを綺麗にして貰えたのね。本当に気に入っていたから良かったわね」
「はい、お母様」
母様の元に行きたいのだけれど、ビシュー様の手が離される気が全くしない。繋がれた手を見て、ビシュー様を見上げるとにっこりと笑われた。
うん、王子様みたいな素敵な笑顔ですがそうじゃないです。
「フランソワ夫人!リルチェルちゃんは本当に可愛らしいわねえ!私もこんな娘が欲しいわ!」
ビシュー様と笑顔で見つめあって、手を離して欲しいどんパチを無言でしていると反対側からコースター夫人に抱きつかれた。突然の出来事にひょっとなる。
侯爵夫人に抱かれて
侯爵子息に手を握られて
それが公衆の面前。
………あれこれ、エイラー様の時よりも詰んだ状態じゃないだろうか。
逃げられる気が全くしないんだけれども、あれ私いつの間に捕まっていたの。
「あ、ええ、うちのリルチェルはとても可愛らしいですから」
動揺した母はエイラー夫人をちらっと見た。
気を使うようなその姿にピンとくる。
「私もリルチェル嬢のような娘が欲しいですわあ」
にっこりと、けれども悔しさというか負の感情が隠しきれてないエイラー夫人。恐らく夫人は既に母に婚約の打診を入れていたのだろう。
それを目の前でカッさらわれて悔しい気持ちはわかるが、私にわかるほどに表情に出すなんて。
そう思うとコースター夫人は一遍も読ませず流石だと思う。
「あら、エイラー夫人にはリリーちゃんが居るじゃない」
読ませず、切り捨てた。
リルチェルは私のものと言わんばかりの態度に内心慌てる私と普通にオロオロする母。うん、子爵程度の身分じゃ伯爵家と侯爵家のドンパチに混ざれませんよね母様。
『演技スキルのレベルが12に上がりました』
おおう、スキルのことなんか忘れてた。それどころじゃなさすぎるのと、パーティ中に特にアナウンスがなかったから。
『ねえリルチェル、僕とあいつどっちがいい?』
スキルアナウンスで一瞬気が緩んだ瞬間、耳元でビシュー様が囁いてきたので驚いて飛び跳ねる。それでも夫人は離れなかったけれども。
あいつ。こちらをギリギリと隠さずに睨んでくるエイラー子息。そりゃどちらかって言ったらビシュー様だけれども。
私、これが初めてのパーティで。初めての社交で。
幸せな結婚のために令嬢レベルをあげている最中でまだ相手を決める段階にいるとは思ってない。
それにビシュー様は話しやすくて良い方だけれどもまだ初対面でどんな人か分からないし。そもそも選択肢が2つしかないなんて。
『どちらかと言えばビシュー様ですが、私まだ八歳ですのでそういうのよく分かりません』
そう返せば、
ビシュー様ははっきりと悪さが見える顔を私だけに見せて笑った。
『じゃあ僕がそういうのを教えてあげるよ』
いえ結構ですと、咄嗟に口に出さなかった私を誰か褒めて欲しい。




