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Romantic Puzzle2  作者: 海底人67519
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Romantic Puzzle2

 白砂を跳ぶように走る二人の武将の形はと云えば、山伏の如き、白装束だ。頭に頭巾をかぶり、篠懸という麻の衣を身に纏い、手には錫杖と呼ばれる樫の杖を携えている。手足は、手甲、脚絆で固め、足元は八目草鞋だ。背には、笈と呼ばれる竹籠を背負っている。二人の忍びのような足捌きは尋常のものではない。

 女をトヨタ製ランドクルーザーに押し込もうとしていた誘拐犯が、白装束が凄い勢いで迫って来たことに気づいて二人に銃口を向けた。その刹那、尼子の錫杖が、やり投げの如く男に向かって放たれた。男たちも銃を乱射するが、義村と尼子の動きが早く、絣もしない。

 尼子の放った錫杖を食らった男は、一撃で気を喪い、抱えられた女は解放された。男達は、4人組らしく、次々に義村と尼子に銃剣で襲い掛かるが、日本武将の敵ではない。二人の武将は、錫杖を蜘蛛の糸の如く操り、瞬時に男どもを叩きのめした。黒いスカーフで覆面した男どもは、ホウホウの体で車に乗り込み逃走した。

 西園寺が息を切らして現場に駆け付けた際には、誘拐されかけた女が砂浜に横たわっていた。西園寺は、彼女を優しく抱き起こし、ポケットにあったミニボトルでウイスキーを彼女の形の良い唇に注いだ。

 彼女を拉致せんとした4人組は、覆面で人相を隠していたが、尼子たちは十代の若者だろうと判別した。「イスラム過激派か・・・」。義村が、呟く。「すべての基は貧困」。尼子も、自らが切り取った中国11か国に思いを馳せる。義村も尼子も、民を豊かにすべく生涯を掛けて戦った自負がある。

 西園寺は、月明かりに照らされた女の顔に見覚えがあった。「柚木冴子さん」。怯えたような眼差しを向ける冴子に西園寺は柔らかく語りかけた。西園寺は、「もう大丈夫」と彼女を抱き上げると、浜辺の倒木に座らせた。

 西園寺は、イスラム過激派のような4人組に冴子が拉致しようとしたが、自分たちが運良く奪回出来たと告げた。「ええ、本当にありがとう」。冴子は、あらためて西園寺に礼を述べた。冴子は、コンサートの後、一人になりたくて浜辺に散歩に出たようだ。彼女は、初対面の西園寺に、彼女の心の葛藤を隠さずに吐露した。西園寺と、冴子の人生が交わった瞬間だったかも知れない。

 「初対面なのに、貴方には素直に心の内が話せる」。冴子は、西園寺に、2年前に公私のパートナーを喪った喪失感、そして、歌手人生の幕引きを誓ったこと等を語った。一方、西園寺も、冴子のソロデビュー以来の大ファンだったこと、大腸がんを患って仕事も家庭も喪ったこと等を語り合った。二人は運命を感じていた。このカイザリアの地で、二人の赤い糸が絡まったのだ。

 永遠に続くかに思われた二人の出逢いも、冴子の所在を求めるマネジャーの無粋な声で終焉を迎えた。義村が冴子を探す彼女たちスタッフを案内したようだ。辣腕と思しき女性マネジャーは西園寺に訝し気な視線を向けながらも、「お世話になったようで・・」と型通りの礼を述べて、柚木冴子の背に手をやり、迎えの車へと促した。


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