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その26:決戦あけぼの公園・ロリコン鬼

 鬼と戦う覚悟を決めた俺に、ひよりが言う。

「お願いしますっ。メグルさんなら、きっと大丈夫ですよ。封邪の護符の加護もありますし、わたしもサポートします。ですから、またわたしが土俵にあがらなくてもいいように、ぜひとも勝ってくださいっ」

 むぅ。なんとか俺をのせようとしているな。そんなにイヤなのか。アレと組み合うのが。まぁ、俺でもちょっとイヤだからなぁ。無理もないか。


「しかし、言ったはいいけどどう戦えばいいんだ。何だかんだ言っても、力は向こうのほうが強そうだしな」

「メグルさんの場合は、わたしと違って手のひらを開いた状態になるのが都合がいいです。憶えてますか? 本封印の術式は、固着紋を抑えて相手の額に手のひらを当てて『封印』と言うだけです。だから、張り手のようにあの鬼の額を叩ければそれで発動します」

「そうか。その一発を決めることができれば勝てるわけか」

「でも……。その前にある程度ダメージを与えなければいけないんです。本当なら、そのダメージはわたしが与えて、最後にメグルさんに封印をしてもらうわけですけど……」

「……結局、俺があいつにダメージを与えないといけないわけか。どの程度与えればいいんだよ」

「それはやってみないと……。タイミングが来たら、わたしが伝えますけど……」

「タイミングはわかるのか?」

「それも水先案内能力のひとつなんです」

 ふーむ。本人も言ってたが、意外と使えるやつなのか、ひよりって。サポート能力は高そうだな。よし、俺だけじゃなく、ひよりも一緒に戦うということだ。勝てそうな気がしてきた。


 土俵に近づく俺を見て、鬼はやれやれという感じで首を振り肩をすくめる。どうにもムカつく野郎だなぁ。完全になめられてる感じがする。俺は土俵にあがると、鬼に向かって言う。

「お前なんかひよりが出るまでもねぇっ! 前座の俺が相手してやるよ!」

「ぐひ。ぐひ。オマエ……。シュンサツ……。ツギ……。アノコとクンズホグレツ……」

 お。喋れるのか。なんで片言なんだかわからんが。しかし言うこともキモいな。ひよりが引きつった表情してるじゃないか。

「め、メグルさん! あんなこと言ってますよ! あーもう! あんなやつ、ギッタギタにやっつけちゃってくださいーっ! わたしに回さないでーっ!」


 俺に勝ってほしいというより、自分がやりたくないだけなんだな。まったく。まぁ、俺も負けるつもりはないけどもな。俺はあらためて鬼を指差して言う。

「おいコラ! このロリコン鬼! 俺をなめてると痛い目見るからな! 覚悟しやがれ!」

「なっ。ロリコンってどういうことですかっ。わたしはロリっ子じゃないですよっ」

 おい。俺がノリノリで煽ってるのに、腰を折るなよな……。

「まぁ、ロリかどうかは本人が決めることじゃなくて、見る側が決めることだからなぁ」

「なに言ってるんですかっ。こんな大人の乙女に対してっ。わたしはもう十六なんですからねっ」

「エ……。ジュウロク……」

「ほら。ロリコン鬼くんも予想外だったみたいだぞ」

「ナンダ……ババア……カヨ……」

「なんか、ひよりに対する興味が薄れていってるみたいだな」

「うううう。興味をなくしてもらうのは非常にありがたいんですけど……。なんだか、なんだかすごく腹が立つーっ!」

「サテ……。ヤルベ」

 賢者のように冷静になったロリコン鬼が俺に向かって言う。

「お、おう。やるか……」

「メグルさんっ。なんだかやりきれないわたしの気持ちものせて、そいつを粉砕してくださいっ」

「はい。サポートお願いします……」

 一連の相撲の所作を終え、その時点で俺は仕切りに入っていた。


 そして、行司がいるわけでもない土俵上で、俺とロリコン鬼が立合う。

 俺は相撲自体はやったことがない。小学校の体育であったかどうか。その記憶も曖昧なくらいだ。でも婆ちゃんとテレビで大相撲はよく観ていたから、ある程度の動きはわかる。はずだ。

 仕切り線をはさんでにらみ合い、両手をつく。行司がいるわけでもないから、立合いの声がかかるわけではない。そもそも、相撲の立合いは行司が声をかけるわけではなく、力士の互いの呼吸で決まるのだけど。


 その呼吸が、合った。俺とロリコン鬼は同時に立つ。変に小細工はしないことにする。真っ向勝負でいってみる。パワーはもちろん鬼のほうがありそうだが、なんだかこのオタクっぽい感じのやつに力負けはしないような気がするのだ。しかし。

 組んでみてわかった。やっぱりこいつは鬼だ。地上人である俺とは違うことを思い知る。俺には封邪の護符の加護もあるらしいが、それでもぜんぜん違う。

 つかまってしまうと、もう動けない。それに……やっぱりちょっとキショい。俺は普通に服を着ているわけだけど、やつの青っぽくぬらぬらした肌が触れていると、ゾゾゾとしてしまう。これは……やはりひよりと組ませるわけにはいかないと、思う。


 そして、動けないまま押し込まれ、そのまま土俵を割ってしまった。

 相撲的に一度でも負けたら終了だったらどうしようかとも思ったが、そういうことでもないらしい。

「ブフフ……。ヨワヨワ。……オトコとヤルノ、キショイからモウヤメトケ……」

「お前にキショいとか言われたくないな。だいたい、女子相手に相撲をとろうと考える事自体がキショいだろうが」

「ジョシとスモウ……。ソレは、ろまん……。タダシじゅうにサイいかニ、カギル……」

「……もうそれ以上はやめとけ。なんかにひっかかるぞ」

 そんなことを言い合いながら、すぐに二度目の立合いに入る。しかし、先程と比べるとすごく疲れている感じがする。どうやら、一度負けると体力がごっそり減るらしい。何度か負けると体力が無くなって、命を失うことになるのかもしれない。そこまでが勝負なのか。


 だが、何度か挑戦できるのなら俺にとっては勝機があるかもしれない。やつは俺の体力をゼロにしなければ勝ちにならないが、俺はヤツに本封印の術式を行えれば勝ちになるのだ。何度か負けながらでもダメージを与えていき、本封印さえ出来るようになれば。


 二度目の立合い。俺にさほどのパワーが無いとわかったヤツが突っ込んでくる。速攻で吹っ飛ばしてやろうということか。

 そこにひよりが

「北東です!」

 と合図する。俺は北東方向へ飛ぶ。予想と違ったのか、ヤツは少しバランスを崩す。そこへ蹴手繰り。ヤツを倒すには至らないが、足に多少のダメージは入ったはずだ。

 ヤツにつかまってしまうと、俺としてはどうしようもない。つかまらないように逃げ回って少しずつダメージを入れていかなければ。そのために、ひよりの方位指示が役に立つ。

 あの方向音痴の指示で大丈夫なのかとも思ったが、方位自体は正しいのだ。ひよりが、実際にそれがどっちなのか把握できないからいつもは変なところに行ってしまうだけで。

 もしもひよりがこの土俵にあがっていたら、正しい方位がわかっていても違う方へ踏み込んでしまって、ヤツにつかまる羽目になってしまうだろう。それであれば、ひよりは指示に専念して俺が戦うというのは正解なのかもしれない。


「ぐっ。いててて……」

 とはいえ、やはり自力はヤツの方が上なので、逃げ切れずにまた突き出されてしまう。それに、体力も落ちていて反応速度も落ちている。もうちょっと早く反応できるといいんだが。

 三回目の仕切りに入りながら、ひよりと話をする。

「メグルさんっ。大丈夫ですか?」

「うん。まだ大丈夫。でもあと三回か四回も負けたら死ぬかもな。封印タイミングは……まだだろうな」

「……まだです。なんとか少しずつでもダメージを……。死ぬなんて言わないでくださいよっ。危なそうだったら、言ってくださいね。キモいとか言ってられません。わたしが入りますからっ」

「ああ。そのときは頼むよ。でも、ひよりは指示出してる方がいいと思うぞ。……ただ、できたらもうちょっと早めに指示をもらえるとありがたいんだけどな」

「できるだけ早めにはしてるんですけど……。でもここは鬼の結界の中なので、ちょっと遅くなってしまうみたいです。もう少しパワーが出せればいいんですけど。ああ、五合目カフェであの方角石のミニレプリカを借りてくればよかったですね。あれでも、あれば少しは足しになったかもしれないのに」

「まぁ、それはしょうがないさ。俺たちのものじゃないんだし。……よし、三回目だ」


 三度目の立合い。

「下です!」

 ヤツがいきなり張ってきた。ひよりの指示に俺はかろうじて頭を下げて回避する。そのまま頭突きをするような形でヤツの胸を押す。これもダメージになったかな……?

「東です!」

 頭で押しても、ヤツはそれほど下がらない。そのまま俺の身体をつかまえようとしてくるが、東へ行けば避けられるはず……。

 だったが、少し遅かった。つかまってしまった。そのまま持ち上げられ、背中から土俵に叩きつけられる。

「ぐえ……っ」

「メグルさんっ!」

「ぐひ。ぐひ。ヨワスギ……。ババアでもイイカラ、もうカワレ……」

 俺は悶絶している。そんな俺を見て、ひよりはキッとロリコン鬼を見据える。

「くっ。……いいでしょう。お望み通り、わたしが代わります。メグルさんを痛めつけたこと、わたしが三倍にして返してあげますよっ。覚悟してくださいねっ」

 俺は叩きつけられた背中を土俵につけたまま首を上げ、ひよりの方を見る。ひよりが駆けつけてくるようだ。そこで目に入ったのは……。

「ま、待て。ひより。もう少し指示を頼む」

 俺はよろよろと起き上がって、ひよりを制する。

「だって、メグルさん! もうボロボロじゃないですか!」

「まだ一回二回負けても死なないだろ。それより、早めの指示を頼む。後ろを見てみろ」

 ひよりは振り向く。土俵から少し離れた、公園の南東側の入り口付近を見る。

「あ。こんなところに……」

 驚くひよりに、俺は親指を立てる。

「そこで、よろしく頼むよ」


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