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その25:決戦あけぼの公園・ひより土俵入り

 なに。結界? すでにこのあけぼの公園全体に結界が張ってあるということだったけれども。それに加えて、あの土俵にも結界が張られているっていうことか。それで、ひよりの動きが変なのか?

「おーい。大丈夫か? 動けないとかか? そこから抜け出せるか?」

「う、動けるんですけど……。動きがお相撲さんっぽくなっちゃうんですよぉ! ホントはすぐ飛び込んでヘブンズストライクって思ってたんですけど、俵をまたいだらこんな姿勢になっちゃってっ。ちょっと恥ずかしいんですけどっ」

「それな、蹲踞っていうんだけどな」

「そんきょとか、名前なんてどうでもいいですよっ。こんな、足を開いてっ」

 ふむ。まぁ、確かにあんまり女の子はしない格好かもだけど。相撲の基本姿勢だしなぁ。


「でも女の人もダイエットとかでやる姿勢みたいだぞ」

「えっ……。いやいや、それでも男の人の前でなんかやりませんよっ」

「まぁ、その格好も最初だけだろ? 戦いが始まったら食らわせてやれよ。ヘブンズストライク」

「そ、そうですね。始まってしまえば……」

 そう言いながら、ひよりは四股を踏む姿勢に入り、左足を大きく上げる。

「ああっ。またこんな格好をっ。メグルさんっ。こっち見ないでくださいっ」

「よいしょぉっ! いや別に恥ずかしいことじゃないぞ。伝統的な相撲の所作なんだから。それにそれだけ足を高くあげられるというのもなかなかすごいぞ。うまいもんだ」

「掛け声かけないでくださいいい。足上げるの見ないでくださいいい。それになんでそんな相撲に詳しいんですかっ」

「俺のばあちゃんが相撲好きでな。テレビでよく観てたんだよ。ひよりこそ、相撲はもともと神事なんだから、知ってなきゃダメだろ?」

「だからって、自分でやったりしませんよっ。ううう。恥ずかしい……」

 右足を大きく上げながら言う。


「よいしょぉっ! 神界女子相撲でもやればいいのに。あ、そうだ。そんな巫女姿で相撲とるんなら、コスチュームチェンジできないの? チェンジコスチューム! まわし! とかさ」

「そんなコスチュームありませんよっ! あるわけないじゃないですかっ! あってもやりませんよっ! この巫女姿だからまだ恥ずかしくないですけどもっ! まわしなんてっ」

「まぁ、女子なんだしまわし一丁とはいかないだろうけどさ。しかしそうか。無いのか。残念だな。今度神様に提案してみるか」

「だっ……ダメですよっ! そんなこと絶対言わないでくださいねっ! 神様、ホントにやっちゃうんですから!」

「ほほぅ。メモメモ」

「ダメですってば!」

「まぁ、まわしはともかく、動きやすいように体操着とかさ」

「体操着なら……。あっ! ありませんありません! 絶対ありませんよ! ブルマなんて!」

 ほう。あるんだな。しかも今どきブルマとは。そのうち何かで披露してもらおう。しかしさすが世代が上らしい神様、グッジョブ。

 などと言いながら、ひよりは仕切り線近くで仕切りの体勢になる。鬼の像も仕切り線までズリズリとやってくる。


「お。そろそろ時間いっぱいか? ひより、一発かましてやれ!」

「ええ。やってやりますよ! こんな恥ずかしい思いをさせられて……。あっ」

「ん? どうした?」

「ヘブンズストライクが……出せません……」

「えっ。どうして」

「仕切ってみて、わたしの身体が……そう言ってる感じなんです。たぶん、この土俵上では相撲の概念に縛られるみたいで……」

「だから?」

「拳で……グーで殴れないんですっ。だから、ヘブンズストライクは……」

 なるほど。相撲でグー殴りしたら反則だろうな。そういう結界なのか。


「手のひらで突くのとか張り手とかは大丈夫だろ? そういう技はないのか? 返し技はいろいろあるとも言ってたじゃないか。ヘブンズスパイラルとか」

「わたし、拳を作って気を込めるので……。手のひら開いてると力が入りにくいんですよね。でもまぁ、なんとかしてみます。組んでしまえば、返し技も投げ技も出せそうだし」

「よし。その意気だ。がんばれ、ひより」

「はい。見ててくださいね」

 これでなかなか強いひよりだ。武闘派巫女はなんとかするんだろう。なんとかしてくれ。俺には最後の封印しかできないからな。

 と、そこで鬼の像に変化が現れた。グニグニと形を変え始める。ここで本来の鬼の姿に戻ろうとしているんだろうか?


「お。ひより。鬼が変化するぞ。本気を出してくるんじゃないのか?」

「どんな姿になったところで関係ありませんよ。すぐに倒します。さあ! いらっしゃい!」

 鬼の像は人間っぽい形をとり始める。像に化けていたときよりもだいぶ大きくなるようだ。

「おい。けっこう大きくなるな。大丈夫か?」

「鬼はだいたい大きいですから。それでビビってたらやってられませんよ! どんな相手だろうとも!」

 おお。頼もしいな。それもそうなんだろうな。こんな小学生みたいに小さなひよりが、自分よりはるかに大きな鬼を相手に臆することなく戦うんだからなぁ。すごいやつなんだな。感動した。バナナオムレット、あとでいっぱい食わしてやるか。


 徐々に鬼の形が見えてくる。身長は普通の成人男子くらいか。でも……太いな。やはり相撲取りっぽい感じになるんだろうか。相撲取りはあれで中身は筋肉が詰まってるらしいけど、こいつはちょっと、アブラが多くぶよぶよかな。角はあるようだが……それが隠れるくらいのボサボサした髪だ。顔は……鬼っぽくないな。その辺の学生みたいで迫力はなく、言ってみればキショいというか……。なんだか鼻息だけ荒そうで……。あれ、なんだろう、こいつの感じ。

 そしてそいつの格好は、やはり相撲だった。まわし一丁の半裸。肌はうっすら青く、人間なら生っちょろいと言われそうな雰囲気。そして汗なのか体液なのか、体表は少しぬらぬらしている感じもする。そしてひよりを見下ろし「ぶふー」と鼻息を漏らす。にんまりと笑ったような気もした。

 それを見て、仕切りの体勢に入っていたひよりが硬直する。そして首だけギギギとこちらに向けた。涙目だ。


「めめめめめめ、メグルさんっ! オタクですっ」

 ああ。いわゆるオタクっぽい感じか。しかしそういう言い方しちゃいかんだろ。炎上するぞ。でも、一番しっくりくる言い方ではあるなぁ。そしてそいつが、まわし一丁で至近距離の正面にいるわけだな……。

「うん。そんな感じするな。でもまぁ、がんばれ。どんな相手だろうとも!」

 すると、ひよりは全身全霊を込めたかのような集中力とダッシュ力を見せて仕切りを中断し、土俵を駆け下りた。そして俺のもとにやってきて、俺の肩を揺さぶる。

「メグルさんメグルさんメグルさんっ! ダメですダメですダメです! あれはダメですぅっ!」

 涙目どころか、泣いてるな……。


「結界から出られたのか。いやしかし、鬼を倒すのはひよりの……」

「お願いしますっ。一生のお願いですっ。代わってくださいいいっ。ムリムリムリムリ。あれだけはダメですぅっ」

「代わるって……。ひよりがいろんな技を使って倒してくれよ」

「そんなっ。わたしに、アレとがっぷり四つに組み合えって言うんですかっ。かわいらしい石像ならともかく、あのぶよぶよしたオタクとっ」

 土俵上の鬼を指して言う。鬼がちょっと傷ついたような顔をした気がしたが、気のせいかもしれない。

「かわいくうら若き乙女である大事なバディが、生っちょろくてぬらぬらした半裸の男に抱きつかれて耳元で鼻息を吹きかけられて、あまつさえ押し倒されても平気なんですかっ?」

 ……鬼、確かに傷ついてるな。悲しそうだ。

「組み合わなくても、なんとかならないのか?」

「わたしの打撃がほぼ使えないので……。どうしても触れないといけないので……。そうすると組み合う可能性が非常に高くて……だからっ」

 ひよりが、じっと見つめてくる。


「うーん。でもなぁ」

「代わってくれないと、わたしがあの鬼に……」

 チラリと鬼を見る。鬼が、ひよりを見て舌なめずりをしたように見えた。

 ゾゾゾゾゾと、鳥肌の立つ音がしたかと思うくらいにひよりが青ざめる。

「代わってくれたら、何でも言うこと聞きますからあっ。お願いしますお願いしますお願いしますうっ」

 しょうがないな。確かにアイツがひよりに抱きついたりするかと思うと俺の心も穏やかではないな。俺に勝てるかどうかはわからないけど、やってやるしかないか。

 しかし、さっき覚えた感動を返してくれ。もちろんバナナオムレットは買ってやらんぞ。

「よしっ。代わってやる! 鬼! 俺が相手だっ!」

 鬼があからさまにイヤな顔をした。土俵外にツバまで吐いた。くそ。ムカついた。見てろよ。この野郎。


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