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その24:決戦あけぼの公園・土俵の結界

 俺とひよりは、あけぼの公園に足を踏み入れる。そこだけ密度の異なる空気の層をくぐり抜けるみたいで、なんだか変な感じだ。ヌポン、という音がしたような気さえする。

 公園の中に俺たち以外の人はいないようだ。子どもたちが遊ぶような時間ではないが、一人二人ベンチに座っていたり犬の散歩をしている人がいてもおかしくない時間ではある。それがいないというのは、やはり結界の効果なんだろうか。まぁ、その方が都合はいいんだろうけれども。


「誰もいないな。普通の人も……鬼も」

「……見えませんね。でも反応はありますから、鬼が潜んでいるのは間違いないです。そもそも結界張ってるんですから、それが鬼のいる証拠です。地上人はごまかせても我々には逆効果です」

「鬼も、神界の鬼探知機がこっちにいるなんて思ってないだろうしなぁ」

「鬼探知機って、なんかイヤな呼び名なんですが」

「褒めてるんだぞ?」

「そ……そうですか? んふふ。……でもやっぱりなんかイヤ」

「それはそれとして。この中にいるんだとしても、鬼はどこだ? 姿を消したりする鬼もいるのか?」

「そういう鬼もいないことはないですね。何か特定の物に化ける鬼は多いですが。消える鬼はけっこうレアなので、今回は違うと思うんですけど」

「んー。そういうことであれば、隠れてるのかな。何かの小屋みたいなのとかトイレもあるけど」

「トイレですか……。地上に来るような鬼はだいたいオスなんですけど……。メグルさん、ちょっと男子トイレ見てきてもらえますか?」

「え。俺が見てくるの? 出くわしたら嫌だなぁ」

「女子のわたしが男子トイレ見てくるわけにいかないじゃないですかっ。女鬼という可能性も無いわけじゃないので、一応わたしも女子トイレ見てきますけど」

「えー。そんなこと言ってる場合かなぁ……。それに、鬼もやっぱりオスなら男子トイレ入るのか? そういう秩序はぶっ壊しちゃうんじゃないの? 鬼って」

「違うトイレ入ったら、鬼も恥ずかしいと思いますよー。それがばれてヘンタイとか言われたらイヤなんじゃないですか?」

 んー。そういうもんなのか? そもそも鬼もトイレ入るのか? 鬼って意外と文明生物なんじゃ。地上人にはたまに女子トイレ入って興奮して捕まる男とかいるけれども、それと比べたら紳士なんではないのか。


 などと考えつつ、どきどきしながら男子トイレをのぞいてみる。……いないな。個室の方は……やっぱりいないか。よかった。いや、でも鬼が個室でしゃがんでたらそこで攻撃すれば楽に勝てたかもな。むこうは無防備だろうからな。

 ……いやいや、そんなことをしたらいかんか。それは鬼畜の所業というやつだよな。鬼畜の所業……か。鬼は自分が攻撃する際にはそんな非道いことをするんだろうか。しゃがんでるときに攻撃されたくないなぁ。それはもう、すべての生物が遵守すべき戦いマナーだよな。ヒーローが変身したり名乗りを上げてるときにはどんな悪玉でも攻撃はしないようなもんだろう。


 トイレを出ると、ひよりも女子トイレから出てくる。

「男子トイレにはいなかったぞ」

「女子トイレにもいませんでした」

「それじゃ、あの小屋かな」

「見てみましょう」

 と見てみたが、その小屋には鍵がかかっていて開かない。

「これだと、鬼も入れないですね」

「あとは、隠れられそうなところもないけどなぁ」

 俺は公園を見回してみる。樹木の茂みとかはあるが……。隠れていられそうもない。


「いないなぁ。探知機の先生、水先案内能力で鬼は見つけられないのか?」

「探知機って言わないでください。そうですね。できるだけ戦いに力を残しておきたいところではありますが。まかせてください。リアル鬼ごっこですね。あれ。かくれんぼかな?」

 ひよりは目を閉じ、集中しているような表情になる。

「んむむ……。鬼方位確認! 東! あっちです!」

 ひよりが指をさす。俺はそれを見て言う。

「指が正しいのか? それとも言葉が正しいのか?」

「何言ってるんですか。東ですよ」

「指は西をさしてるんだが」

「こ……言葉が正しいです……」

 指を正しい方向に向けなおしたひよりは、顔を赤くしてうつむく。

 ふむ。そういや、初めて会った展望台でも「吉方位確認! 南!」とかカッコいいこと言って北へ跳んで落ちそうになってたな。能力で正しい方向を捉えてはいるんだけれど、方向音痴のひよりはその方向がどちらなのか把握していないということか。


 俺は東の方角を見る。そちらにはベンチや、公園東側の出口がある。出口には、例のふんどし鬼の像が三体あるだけだ。……ん? 三体?

「おい! ひより! あれだ。あの像、一体増えてるぞ。あれに化けてるんだ」

「あっ。ホントですね! なんて巧妙な!」

 言うほど巧妙ではない気もするが、意外と気づかなかった。

「どうする? このまま封印できるのか?」

「ちょっと弱らせてからでないと無理ですね。わたしが弱らせてあげましょう!」

 ほぅ。頼もしいな。自分が戦いたいだけ……じゃないんだよな? この武闘派ちびっこ巫女は。


 俺たちが気づいたのに鬼も気がついたのか、像のひとつがプルプルと震えだす。

「あなたですねっ。鬼が化けている像はっ! 今、楽にしてあげますっ。ヘブンズ……」

 ひよりが駆け出し、プルプルしていた像に迫る。そして先制のアレを食らわせようとしたようだが。

「ストライクっ! ……あっ」

 ひよりの拳は空を切り、像はポーンと宙を舞った。すごい跳躍力。と、俺は感心してしまった。

 そのまま像はバク宙をするように縦に一回転して土俵の手前に降り立つ。ズン。と重量感のある音をさせて。見事な着地。9.90くらいあげてもいいんではないか。俺は拍手をしそうになったが、ひよりはそれどころではない。

「くっ。なかなかやりますね。今度こそ……!」

 ひよりは土俵の方へ方向転換し、拳に力を込めつつ再度鬼の像に迫る。そしてもうすぐ射程圏内というところで、像はまた跳躍した。

「もう! ちょろちょろとっ!」

 悔しがるひよりを尻目に、像はきれいに土俵上に着地した。そして土俵の上からこちらを見下ろしているかのようだ。見下ろすと言うほど高さではないが、土俵の上からだとなんとなく見下されてるような気がする。

 でべそでまわしをつけた子どものような、基本的にかわいい像なのだが、顔が鬼ということもあって見下されると憎々しい。


 翻弄されたような形になったひよりは、少しイラつきながら言う。

「ふっ。何ですか。土俵の上なんかにのって。そこで勝負をつけようとか言ってるんじゃないでしょうねっ。どこででも一緒ですからねっ。ヘブンズストライクで瞬殺ですっ!」

 ふむ。確かに、なんとなく誘ってるような感じではあるな。ここがやつのフィールドであり、媒介石もまわしをつけた相撲スタイルであるならば、相撲が得意技だというのはあるかもしれないな。

 でも別に向こうが得意だからといってこっちも相撲に付き合ってやる必要はないだろうからなぁ。ひよりが土俵に飛び込んでアレを食らわせてやれば、それで終了なんだろうな。


 ひよりも、目をギラつかせながら拳に力を込めている。

「さあ、覚悟はいいですかっ? 今度は逃げないでくださいねっ」

「なぁ、ひより。そいつ石みたいだけど、殴って痛くないの?」

「な、なんですかメグルさん、突然。ひょっとして心配してくれてるんですか?」

「まぁ、ちょっと気になったもんで」

「化けてるだけですから。強度は鬼と一緒ですよ。仮に石だったとしても、ヘブンズストライクなら砕けますけどねっ」

 俺はいつもそんなのを食らってるんだなぁ。それとも、いつも手加減してくれてるんだろうか。

「そうか。安心した。じゃあ、そいつに『平たい中学生』と言われたと思って、思いっきりぶん殴ってやれ」

「……そうします。あんな像、粉砕です。カケラも残らないようにしてあげます。そして終わったら、同じものをメグルさんにもあげますからねっ」

「すみません。勘弁してください」

「もう遅いですっ!」


 ひよりが土俵にあがる。女人禁制とか関係ないよな。女子相撲ってのもあるしな。

 とか考えていると、ひよりは俵を超えたところで蹲踞の姿勢をとる。

 ん? なんだ? 相撲に付き合ってやるつもりなのか? いきなり殴ってやればいいのに。

 しかし、当のひよりもなんだか面食らっているようだ。口をパクパクさせて、焦っているのが見て取れる。そして首だけ動かして俺の方を見て言う。

「め、メグルさん! これ、結界ですっ! ここにも結界があるんですっ!」


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