2話 到来
死に物狂いで走る。後ろを見ながら走るほど余裕はないから今あいつがどれくらい近くにいるのかはわからない。壱砂と情報交換したいがそんな暇もない。
助けを求めようとしても不思議なことに周りには人っ子ひとり見当たらない。巻き込まれないから不幸中の幸いなのか?いや、俺らを助けてくれる人がいないのだから不幸なのだろう。
「おい玄真、なんとか、まいた、みたいだぜ、、」
肩で息をしている壱砂は言った。どうやらほんとにまけたようだ。
『なんだったんだ、、とりあえず、警察に、報告、か?』
俺も乱れに乱れた息を整えながら提案した。警察に話したところで信じてくれるかはわからないが、今はとにかく力ある者にすがりたい一心だった。
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近くの交番に着くとそこには目を疑う光景があった。
「お前ら俺のこと撒いたと思ってたんかぁ?甘めぇぞその考え。撒いたんじゃねぇ、先回りされてるだけなんだよなぁ」
さっきまで後ろにいたはずの男が座り込んでいる。交番に人影はない。そこにあるのは感じただけで吐きそうなオーラ。まるで悪魔と話しているかのようだった。
「俺からここまで逃げたことは認めてやるぅ。でもお前らはここで終わりだ」
俺と壱砂の顔に浮かぶのは恐怖。そして絶望。何をどうしたらいいのかわからなかった。頭が働かない。壱砂はもう泣く寸前だ。
[剛水の獄牢!!!]
甲高い声と共に現れた女性。すらっとした手足に長く蒼い髪。俺らをチラッと確認すると不穏なあいつを宙に浮く水の牢に閉じ込めた。
「こちら筒香。《ネミーコ》を一人確保よ。ったく急に現れるんだもん。ほんと嫌になるわ」
「貴様ら…!《トーレ》の連中か!っくしょう!殺す!」
「そんな状態で動けるわけないでしょ?諦めなよ」
俺らは状況が掴めなかった。あんな強かったやつが一瞬で捕まった?しかも知らないカタカナがばんばんと飛び交う。安心して良いのかも解決したのかもわからない。
「あのぉ…。すいません、これってどーゆー状況ですか?俺たちって一体どうなる…。」
壱砂もかなり動揺している。それもそうだ漫画でしか見たことない世界が目の前に広がっているのだから。正直俺も声が出ないくらい混乱と不安の渦の中にいる。
「安心しなさい。あなた達は一度私たちが保護するわ。まぁ今のことは何もかも忘れるだろうけど」
『は?忘れるって。こんな常識外れなもん見て忘れられるわけが』
俺の言葉を遮るように彼女の内線が鳴る。
「あらごめんなさい。帰還命令だわ。一度眠ってもらうわね?荒っぽいけど許して?」
彼女が指を鳴らすと息が苦しくなった。道路の真ん中にいるのに溺れるような感覚。もがき苦しみ俺たちは気を失った。