23 懺悔
後に残された三人は、困惑したように顔を見合わせた。やがて、何かを決意したようにすっと佐伯が立ち上がった。
「俺も行こう」
そして、まだ迷っているらしい森川たちの方を振り向いて言う。
「スパイダープランを推し進めたNEXTも憎むべき敵だが、この国でスパイダーの保護を行ってきた政府軍も同罪だ。俺の両親が死んだのは奴らのせいでもある。話くらいは聞いておこう。それに、この機会に和泉の父親の面を拝んでおくのも悪くはない」
お前たちはどうする、とばかりに彼女らを見やる。森川も井上も、彼に続いて立ち上がった。
「うちも行く」
「私も」
二人の胸中には、別々な思いがあった。
森川が思い出していたのは、蓮が隠していた秘密を打ち明けたときのことだった。
あのとき彼女は、「何で自分たちに話してくれなかったのか」と憤り、涙を流しさえした。しかし今考えてみれば、蓮の気持ちも分かる。彼にとって、父親に関する記憶はできれば忘れてしまいたい類のことだったのだ。複雑すぎる境遇にある蓮には、全てをひた隠しにして生きるのは一番楽な選択肢であったのだろう。少なくとも、あの頃は。
一方の井上は、漠然とした不安に囚われていた。先日のセイレーンとの戦いで、蓮は多少なりとも精神的にダメージを受けているのではないか。そしてそれは、父親との確執に関係することではなかっただろうか。少し前から、このことを案じると気がかりで仕方なかった。自分にも責任があるような気がしていた。
(私も、和泉君の力になりたい。和泉君を助けたい)
今は、強くそう思えた。それぞれの記憶と思惑を抱え、三人は蓮の後を追った。
零二の申し出を、曽我部は神妙な顔つきで聞いていた。信頼できるか否か判断しているという風でもあった。
「我々は今、NEXTに追われている女性を匿っています。彼女は、奴らの計画に何らかの形で関わる存在のようです。NEXTを倒し、計画を阻止するというのは討伐隊の望むところでもあります」
しかし、と曽我部はそこで言葉を切った。
「利害関係が一致しているからといって、反対の立場にある私たちが簡単に手を組むのには様々な問題が伴います。まずは、事情をじっくりと聞かせてください。どういうわけで、ここに転がり込んできたのですか」
転がり込むという言い方からは、零二たちを邪魔者だと認識しているといったニュアンスが滲んでいる。長年続いた対立関係は、すぐに崩れるというわけにはいかないようだ。
「分かった」
威圧感をもって迫る曽我部に軽く頷き、零二は長い話を始めた。
「話は十年以上前に遡る。私が軍司令官に就任してすぐ、NEXTは政府軍に、能力者という新技術を提供したいと申し出てきた。ただし、その見返りとして彼らは一つの条件を提示してきた。可能な限りスパイダーを保護せよ、と」
隊員たちは、息を飲んで零二の話に耳を傾けていた。彼の話が本当ならば、軍の打ち出した方針はNEXTの干渉を受けてのものだったということになる。NEXTが軍に技術協力をしているのではないかという推測は当たっていたが、両者の癒着は想像よりずっと前から始まっていた。
「私は悩み、苦しんだ。能力者を導入すれば、スパイダーによる犠牲者を今よりもぐっと減らすことができる。当時はまだスパイダーに対抗しうる武器が十分に開発されておらず、犠牲者の数は増える一方だった。民を守るためには、NEXTの提案を受けて最新技術を導入することが最善の選択肢であったはずだ。けれども、彼らと手を組むのであれば、私たちはスパイダーを守らなければならなくなる」
心なしか、零二の表情は苦々しげだった。
「結局私は提案に乗り、軍の方針を転換させた。スパイダーが暴れ出した時のための対抗手段として、秘密裏に能力者の研究が進められた。だが、おそらくそれが間違いだったんだ」
人垣の周縁部に辿り着き、蓮は父親の声に耳を傾けた。久方ぶりに聞く声のような気がした。できるのなら今すぐに面と向かって話をしたかったが、父は今、曽我部や澤田たちに向けて過去を語っている最中だった。気持ちははやるが、一区切りついてからにせねばなるまい。
「NEXTはその頃から、自分たちが描くシナリオ通りに行動を始めていたんだろう。我が国だけではなく、彼らは多くの国の政府機関へ陰で働きかけていた。そして、私に持ち掛けたのと似たような取引を行っていたんだ。NEXTは諸外国と交渉し、ほぼ地球全域においてスパイダーの保護を推し進めさせた。その事実に気づいたとき、私は既に引き返せないところまで来てしまっていた」
過去の告白というより、零二のそれは罪の懺悔に等しかった。見ていて痛々しかった。遅れて到着した佐伯、井上、森川も隣で口元を引き結び、思い思いに零二の言葉を聞いている。
「私には、NEXTが何を企んでいるのかは分からない。自らの手で人工生命体スパイダーを生み出し、対抗策として能力者を開発した。しかし能力者を積極的に運用しようとはせず、あくまで切り札として置いておくにとどめた。彼らの行動には不可解な点がありすぎる。これは私の推測だが、スパイダーも能力者も、NEXTのシナリオに必要なパーツの一つに過ぎないのではないだろうか」
対抗策として能力者を開発した――その一節を聞いて、蓮の脳裏に閃くものがあった。
『お前の持つ力には、ふさわしい使い方ってものがある……が、お前は何も知らない。俺たちと一緒に来れば、お前は本来の目的のために力を使えるんだ。いい加減、大人しく投降しろ!』
以前、藤宮と交戦した際に彼が言い放った台詞だ。あの時は何のことを言われているのかまるで分からなかったが、今なら分かる。彼は、能力者の使命を理解していたのだ。いざというときにスパイダーから市民を守るというのが、「本来の目的」だったのだろう。脱走した能力者である蓮を連れ戻したり、討伐隊を妨害したりといったことは、特殊部隊にとって例外的な仕事である。
このようにして軍とNEXTの関係を明かした上で、零二はNEXTと対立するに至った理由を話し始めた。NEXTの保有している、竜の姿をした異形の能力者。彼らへの懐疑、不審。元特殊部隊のメンバーを結集して行われた、ジェームズの暗殺計画。全てはただ淡々と語られたが、真実は残酷だった。
話し終えた零二へ、松木は肩をいからせて歩み寄った。彼にしては珍しく、冷静さを欠いていた。
「何ということを」
今にも殴りかからんばかりの剣幕で、感情を剥き出しにしてまくし立てる。怯んだように後ずさった零二に、松木が詰め寄る。
「あなたの勝手な行動で、一体何人の能力者が死んだと思ってるんです!」
「よせ、松木」
その肩にそっと手を乗せ、澤田は首を振った。彼にしがみついたままの白石は、第二世代との戦いの模様を思い出したのか、また泣きそうになっている。
「俺たちにも責任がないわけじゃない。藤宮の行方を追うのに夢中になるあまり、俺たちはかつての仲間と連絡を取るのを怠っていた。もし俺たちも襲撃に加わっていれば、白石以外のメンバーだって助けることができたかもしれない」
一理ある、と感じたのだろう。松木は悔しさを隠さずに引き下がった。入れ替わりに、今度は澤田が零二と対峙する。
「事情は分かりました。討伐隊の意向は知りませんが、少なくとも俺と松木は、司令に協力したいと思います。散っていった仲間たちの思いは、必ず未来に繋いでみせます」
話は終わりだ、と澤田は踵を返した。だが、握り締めた拳は小刻みに震えていた。
部下たちに独断で命令を下し、犬死にさせた零二を、今すぐに許す気にはなれなかった。けれどもそれ以上に、彼らを葬ったという第二世代の能力者たちが許せなかった。藤宮だけでなく、多くの仲間を彼らは自分たちから奪った。今や元特殊部隊の一員で残っているのは、自分と松木、それから白石だけではないか。
このままでは、行き場のない怒りを誰かにぶつけてしまいそうで怖かった。澤田は松木と白石を連れ、零二を取り囲んだ人だかりの外へ出て行った。少し、頭を冷やす時間が欲しかった。
三人が場を離れても、曽我部はいまだ結論を出せずにいた。零二から引き出せるであろうNEXT関連の情報には、大いに興味を引かれた。切迫した様子から、彼の言葉が嘘ではないことはすぐに分かった。しかし、すぐに同盟を結ぶというのはいかがなものか。
「全部行き当たりばったりじゃないか、君は」
ゆえに、曽我部は零二に揺さぶりをかけることにした。あえてきつい言い回しを使い、反応を見る。
「国民を守れるという目先の利益につられ、NEXTの技術を導入した。そのNEXTが怪しげな動きを見せたから不信感を募らせ、裏切った。奇襲攻撃は失敗して、手駒をほぼ全て失った。だから討伐隊の前に姿を見せ、恥もプライドも捨てて協力を頼んでいるわけだ。そもそも君が最初からNEXTの言いなりになっていなければ、今の状況に陥ることだってなかったはずなのだよ。そんな人間を信用しろなんて、到底無理な話だ」
刹那、零二の顔が苦悶に歪んだ。奥歯を噛みしめた彼は、何も言い返すことができなかった。自身の犯した罪の重さは、痛いほどよく分かっていた。
そのとき、彼らを囲む人垣の中に、さざ波のようにざわめきが広がった。静かに進み出てきた一人の隊員を、曽我部は目を細めて見つめた。
「そうだね。君と彼との対話からもう少し情報を得て、それから判断するのも悪くはない」
零二は驚愕に目を見開き、何度も瞬きをした。凍りついたように、体を硬直させていた。
「蓮。蓮なのか」
「……ああ。久しぶり、父さん」
ゆっくりと首を縦に振り、蓮は父を真っ直ぐに見た。
「勝手に家を出て討伐隊に入ったりして、悪かった。まず、そのことは謝っておきたい」
蓮は一度頭を下げ、それからまた顔を上げた。戸惑った様子の零二に語りかける。
「聞きたいことがあるんだ。父さんは、俺が能力者としての力を宿していることを知っていたの?」
「……ああ。知っていた。黙っていてすまない。だが、お前に明かすわけにはいかなかったんだ」
苦い表情で言い、零二は俯き気味になった。
「明かすわけにはいかなかった?」
オウム返しに応じた蓮に、零二がこくりと頷く。その目には、真剣な光が宿っていた。
「今から、本当のことを話そうと思う。落ち着いて聞いてくれ」
和泉零二はNEXTとの取引に応じ、能力者部隊を編成することとなった。部隊の編成もNEXTの指示だった。今思えば、彼らは能力者たちを管理しやすくするためにあんなことを命じたのだろう。
ジェームズは最初に、能力者を生み出すための材料が必要だと言った。
「動物の持つ異能を人間に移植することで、能力者は誕生します。移植元の動物たちの手配は私たちが引き受けましょう。その代わり、あなた方には被験者を集めてもらいたい」
要請を受け、零二は身寄りのない子供たちを二十名ばかり集めた。皆、幼くして肉親を亡くした者ばかりだった。様々な養護施設や孤児院を巡り、体の丈夫そうな男女を引き取った。軍の管轄下におかれている施設で育てるという名目だったが、実際にはそんな施設は存在しない。書類上のものだった。
子供たちはNEXTの研究機関に連れていかれ、そこで人体実験を受けた。第一世代の能力者が生まれた瞬間であった。澤田や松木、藤宮、それに白石もこの中に含まれる。
彼らは軍の暗部に身を置き、特殊部隊の一員として戦闘訓練に励む日々を送る予定だった。そうすることが、NEXTの意向だった。
けれども零二は、非情に徹することができなかった。長くふれあっているうちに、被験者である子供たちに情が移ってしまったのだ。何の罪もない子供に人体実験を強いて普通の人生を歩めなくしてしまったことに、激しい罪悪感を覚えた。彼らには、殺し合いの中に身を投じる人生しか残されていないのかもしれなかった。
(私は間違っているのではないか)
ふとそんな疑念が頭をもたげようとしたが、感情ではなく理性がそれを押しとどめた。
(いや、そんなことはない。スパイダーの脅威から人類を保護するために、やらなくてはならないことなのだ)
年端もいかない子供たちを実験材料にするNEXTのやり方には、抵抗を感じないわけにはいかなかった。彼らの前身がスパイダーを造り出した科学者グループではないかとも睨んでいた。しかしあの頃の零二は、国民を守るという使命感に囚われすぎていて、そのためならば手段を選ばなかった。ゆえに、あえて反抗しようとはしなかった。
けれども、自身の行いへの罪悪感がNEXTへの恐怖心を上回った。せめて一人だけでも、これから味わうであろう苦難の日々から解放してやりたいと思った。
実験を受けた子供たちの多くは、まだ自分たちがどういう境遇にあるのか正確に理解できていなかった。実験中は強い麻酔をかけられていたため、自分の肉体に何が起こったのか彼らには分からなかった。間もなく戦闘訓練が始まり、自身の中に宿る異能に気がつき始めるのだろう。
それでも子供らは、何となく不穏な気配を感じていたらしい。軍の施設で暮らすようになってから、徐々に笑顔が消えていった。
彼らの中でもとりたてて元気だった少年に、零二の目は止まった。いつもニコニコしていて、食事の際の「いただきます」の声も人一倍大きかった。彼の側にいると、不思議と温かい気持ちになることができた。零二は既婚者だが、子供に恵まれていない。こんな息子がいれば毎日が幸せだろうな、と唐突に思った。
この少年が軍で訓練を受け、笑顔を失っていく様子を想像すると耐えがたいものがあった。彼だけでも、監獄から脱出させてやりたいと強く思った。
零二は、少年の身柄を引き取る決意をした。周囲には妻の恵梨が第一子を授かったのだと嘘をつき、NEXTに勘づかれることを避けた。坂本蓮といったその男の子は和泉家の養子となり、「和泉蓮」と名乗ることになった。幸いにも特殊部隊の名簿はまだ出来上がっておらず、上手く誤魔化すことに成功した。部隊の人数が予定より一人少なくなっていることに、NEXTは気がつかなかったようだった。ジェームズへのささやかな抵抗であった。
特殊部隊の面々が各自の能力に覚醒し始めた頃になると、NEXTは獅子の能力者がいないことに気づいた。そして秘密裏に調査を進め、零二の息子が該当のサンプルである可能性が高いと結論づけた。
だが彼らは零二を泳がせ、どういうつもりなのか見定めようとしていた。特にアクションは起こさず、零二の行動を監視していた。蓮が家出をしてからは一転して責任を追及しようとし、技術漏洩を防止する名目でサンプルの奪還を命じた。しかし、これはずっと先の話である。
零二は少年を家に引き取り、一緒に暮らし始めた。妻と二人で暮らすには少々広すぎたマンションに、輝く太陽が訪れたようだった。少年の明るい笑顔は、家中を眩しく照らしていた。
「何でそんな重要なことを、これまで黙ってたんだよ」
告げられた事実に呆然となりそうになりつつも、蓮は零二に詰め寄った。
「俺と父さんは血が繋がってなくて、しかも俺が能力者になったのは父さんのせいだってことだろ。何でなんだよ」
「言えなかったんだ」
零二は声を震わせていた。
「NEXTに監視されていた私は、お前が実の息子であるように振る舞って嘘を貫き通すしかなかった。それに、お前には戦いと無縁な人生を送ってほしかったんだ。自分が能力者であることなど知らないまま、普通に生きてほしかった」
結局のところそれは叶わなかったが、と自嘲気味な笑みを浮かべる。零二の表情からは、過去のほとんどすべてに対する後悔が滲んでいた。
「それと、私にも謝っておきたいことがある。長い間監視をつけられていたせいで、私は周囲の視線に対して敏感になってしまっていたらしい。養子にしたお前を、何ら恥じることのない理想の後継者にしたいと考えてしまった。私立の学校に通わせて勉学に励ませたり、スパイダーを保護すべきだという考えを押しつけたりしたのは、そういうわけだ」
かぶりを振って、零二が続ける。
「だが、私はお前の気持ちを分かってやることができなかった。私はただ、自分の理想を押しつけていただけだ。いや、理想と言っては語弊がある――NEXTによって演じさせられている自分の姿を、息子に引き継がせようとしていたんだ。お前が反発し、家を出て行ったのも無理のないことだろう。許してくれと言うつもりはないし、言う資格も私にはないのかもしれない。ただ、一つだけ頼みがある。もう一度だけ、やり直すチャンスを私にくれないか」
深く頭を下げた父の姿を、蓮は無言で見つめていた。衝撃が去って冷静さを取り戻し、彼は今考えをまとめていた。第十八班の仲間たちが、その様子を息を潜めて見守る。
やや間があって、蓮は口を開いた。
「……分かった」
零二は顔を上げ、驚いたように蓮を見た。
「父さんのやったことは、確かに許されないことかもしれない。でもそれは、皆のためを思って父さんが全力を尽くそうとした結果だ。今ならまだ、やり直せると思う」
話しながら、蓮は父の言葉を頭の中で反芻していた。父は、決して自分のことを愛していないわけではなかった。それどころか、自分を守るために必死で頑張っていたのだ。先刻まで父に向けていた敵意に似た感情が、嘘のように消えていくのを感じていた。代わりに湧き上がってきたのは、肉親に対して抱く親密な感情だった。
血が繋がっていないからといって、それがどうしたというのだ。父と母は、蓮へ惜しみない愛情を注いでくれていた。その事実が分かっただけで十分だった。
そこに澤田と松木、白石も戻ってきた。走って帰ってきたのではなくゆっくり歩いてきたところを見ると、少し前から人垣の外側にいたらしい。蓮の過去にまつわる話も、ある程度は聞いていただろう。
父が蓮を養子に選んだのは、偶然か運命か。いずれにせよ、選ばれなかった彼らからすればひどい話かもしれない。物心ついた頃から戦闘訓練に明け暮れ、彼らは軍の暗部でとてもじゃないが人間的とはいえない暮らしを送ってきた。蓮に対して、「羨ましい」「何故お前だけが」という風に思ったとしてもおかしくはないのだ。
けれども、三人に取り乱した素振りはなかった。彼らは自分の辿ってきた運命を所与のものとして受け入れ、その上で自分自身の人生を歩んでいこうとしていた。
すっかり落ち着きを取り戻した様子の三人は、蓮の横に並ぶようにして零二と向かい合った。
「先ほどは失礼しました」
一礼した松木に続き、澤田も口を開く。
「ともかく、今は過去の確執にこだわっている場合ではありません。共に力を合わせ、NEXTの企みを打ち砕かなければ」
蓮がちらりと視線を向けると、曽我部は腕組みをして目を閉じ、考えに耽っているようであった。やがて彼は瞼を開き、零二に穏やかな眼差しを向けた。
「私は幾度となく君と対立してきた。君がスパイダーを保護する方針を打ち出したその日から私は反対活動を始め、軍に代わり国民自身の力でスパイダーを倒す必要がある、と考えて討伐隊を結成した。君の差し向けた部隊には、何度も邪魔をされたものだ」
そこで一旦言葉を切り、隊員全員を見回すように視線を巡らせる。
「だが、状況は変わった。政府軍を陰でバックアップしていた、NEXTなる組織こそが黒幕である。彼らはスパイダープランさえも布石の一つとし、我々には想像もつかないような壮大なシナリオを描いている。軍は、彼らにいいように利用されていたに過ぎない」
蓮と零二の対話に耳を傾け、曽我部は「この男は信頼に値する」と判断したに違いない。正直に自身の罪を告白する姿は、彼の目に誠実だと映った。
そして、曽我部は右手を掲げて高らかに宣言した。
「今ここに、政府軍と討伐隊による共同戦線の結成を宣言する!」
対立を繰り返してきた両者にとって、それは紛れもなく歴史的な瞬間であった。あちこちで歓声が上がる中、蓮は父親と固い握手を交わした。
久々に息子の手を握り、零二ははっとした。記憶にあったよりも随分と大きく、がっしりとした手になっていた。討伐隊に入って厳しい訓練に励む中で、蓮は一回りも二回りも成長していた。
(立派になったな)
今となってはもう、息子に自分の後を継がせようなどとは思わない。蓮には誰のものでもない、自分の人生がある。自由に、思うがままに、逞しく生きてほしい。
和やかに笑い合う二人を、井上ら班員はほっとして、遠巻きに見つめていた。




