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汚された箱庭  作者: 瀬川弘毅
4 竜への反逆
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21 決死の作戦

 名簿に記載された連絡先を辿れば、元特殊部隊の面々を召集することは難しくなかった。

「司令、急に呼び出したりしてどうしたんですか」

 司令室には十数名の能力者たちが集められていた。そのうちの一人、二十代前半とみられる短髪の男が、胡散臭そうに零二を見る。彼は確かアルマジロの特徴をそなえた能力者で、強固な皮膚で仲間の盾となることができる。今回の作戦でも、撤退時の隙をなくすのに役立ってくれるだろう。


 なお、色々な手段を試したが藤宮には連絡がつかなかった。澤田と松木も、山奥かどこか圏外にいるらしく電話が繋がらない。リーダー格であった彼ら三人が参加できないのは残念だが、ことは一刻を争う。作戦を遂行するメンバーを選り好みするような余裕はない。彼ら抜きでやるしかないのだ。

「実は、皆に折り入って頼みがある」

 零二はそう言って膝を突き、床に頭をこすりつけた。司令官が恥を捨てて土下座した姿に、元隊員らが戸惑いの表情を浮かべる。こんなことは今まで一度もなかった。

「NEXTを倒すのに、力を貸してほしい」


 それから、零二は長い話をした。政府軍とNEXTの交わした取引について。NEXTの不審な活動について。特殊部隊を解散せざるを得なかったのも、NEXTに圧力をかけられたからであることについて。どれも、NEXTから口止めされているはずの事柄であった。

「これまで私はただ服従するばかりで、何もできなかった。だが、ようやく気づいたんだ。私が間違っていたことに」

 一度顔を上げてから、零二は再び額を床に押し当てた。

「今の君たちは、書類上は私の部下でも何でもない。自由の保障された一般人だ。私の指令に従う義務はないし、今私がした話をNEXTに密告したって構わない。私には、君たちを止める権利がない。それを承知で頼むんだ。勝手なことを頼んでいることも分かっている」


 彼の声は震え、必死さが滲んでいた。

「NEXTは強力な能力者たちを有している。通常の部隊を差し向けたのでは、私たち政府軍に勝ち目はない。彼らを倒すには、君たちの力が必要なんだ」

 しばしの沈黙が流れた。皆、告げられた重い事実を受け止め切れず、どうすべきか迷っているようだった。


「――私、やります」

 静寂を切り裂き、一人が声を上げた。負傷者の救助をもっぱら担っていた、ウサギの能力者の小柄な女だった。

 正直なところ、彼女の能力は実戦向きではない。跳躍力の高さには目を瞠るものがあるが、それ以外の身体能力は低く、近接戦闘になるとかなり非力だ。第一線で戦うよりはむしろ、仲間が逃げる手助けをしたりして援護に徹するタイプである。

「司令の覚悟、確かに伝わりました。私たちにとっての最後の仕事、引き受けます」


 この場で最も弱い者が勇気を示したのに触発され、他の能力者たちも次々と名乗りを上げた。

「俺もです」

「私も!」

 立ち上がった零二は、目を潤ませていた。

「ありがとう、皆。君たちには、感謝してもし切れない」

 そして彼は、作戦の概要を説明し始めた。



 第二世代の能力者による襲撃を受けて、討伐隊はキャンプ地を移動すべきか否かを検討していた。長い議論が交わされたのち、結局彼らは今の場所に留まることにした。

 敵にこの場所が知られてしまっているのは事実だが、また移動するにしてもかなりの労力と時間を要する。移動中に攻撃を受ける可能性も低くはない。交代で見張りを立てることで安全面をカバーしつつ、ここに留まる方が現実的な選択肢だった。

 当面は下手に動かず、スパイダーが出没しても、極力その討伐は他の支部の隊員に任せる。曽我部はこのような方針を打ち出した。戦闘訓練も大規模なものは実施せず、トレーニングを中心とする。

 このような経緯で、山奥では静かな日々が続いていた。しかしそれは、嵐の前の静けさであった。

 彼らのあずかり知らぬところでは、事態は大きく動き始めていた。



 停車したトラックから、何人もの能力者が降り立つ。運送屋に変装した彼らは帽子を目深にかぶり、大きな段ボール箱を台車に乗せてビルへと近づいていった。

 このトラックは零二が手配したものだ。車体側方に刻まれた政府軍のマークをシールで隠しただけの、お粗末な処理しか施されていない。けれども、NEXT本部ビルの警備員は特に呼び止めたりはしなかった。第一関門は無事に突破したと言える。


 駐車場を足早に突っ切り、台車を数人がかりで押しながらビルのエントランスへ入る。受付の中年の女性は彼らを見て、眉をひそめた。同僚にそっと囁きかける。

「変ね。今日、資材の搬入の予定なんてあったかしら」

「分からないけど、急に必要になったのかもしれないわよ」

 ひそひそ話を続けている彼女たちをよそに、元特殊部隊の面々は二手に分かれてエレベーターに乗り込んだ。段ボール箱を運ぶ数名と、残りのメンバーで別々のエレベーターに乗る。


 彼らの行動を注意して見ていた者がいれば、妙な運び方だと思っただろう。上階で合流して段ボールを運ぶのを手伝うつもりだとしても、いささか人数が多すぎやしないだろうか。通常、運送会社はこんな大人数で動かないものだ。

 幸い、見とがめられぬように素早く行動したおかげで、彼らが怪しまれることはなかった。ドアを閉め、迷わず最上階のボタンを押す。


 零二は、NEXTに所属する能力者に第一世代が勝つのは難しいと理解している。ゆえに、正面切って攻撃を仕掛けるのではなく、奇襲を行って速やかに暗殺する計画を立てていた。暗殺対象は、国際研究機関NEXTの所長の座についている、ジェームズ氏だ。指導者を失えば、さすがのNEXTもシナリオの実行を躊躇うに違いない。少なくない打撃を与えられるはずだ。


 荷物を運んでいる方のグループは、エレベーターのドアが閉じた瞬間に動いた。

「もう大丈夫です」

 台車を押していた女が、小声で言う。それを合図に、段ボールの蓋が勢いよく開いた。数名の能力者らが、中から飛び出してくる。彼らは皆、運送会社の制服ではなく普段着であった。現代版、トロイの木馬作戦といったところか。


 そのうちの一人、アルマジロの能力者の男が仲間たちと頷き合う。

「俺たちの目的はあくまでも陽動だ。それを忘れるな」

「ああ。適当に暴れて、頃合いを見計らってとんずらすればいいんだろ」

 茶髪の青年がにやりと笑った。 


 作戦はこうだ。まず、普段着の彼らが騒ぎを起こし、注意をそちらに引きつける。次に残りのメンバーが最上階の執務室へ向かい、ジェームズを仕留める。敵の戦力を二つに分散させ、ジェームズを守るために使える人員を少しでも削ぐ工夫だ。さらに、私服の能力者が先に行動を起こすことによって、先刻到着した運送屋と襲撃を結び付けて考えにくくさせる効果も狙っている。


「和泉司令もなかなかの策士だな」

 彼らが軽口を叩き合っているうちに、エレベーターが止まった。ちょうど、このビルの中央付近に当たる階だった。

「よし、この辺でいいだろう。行くぞ」

 アルマジロの能力者に続き、普段着の男たちが開いたドアから躍り出る。中に乗り込もうとしていたNEXTの社員らは、目をぎらつかせた彼らを見てひっと悲鳴を上げた。


「『能力解放』!」

 吠えるようにコマンドを唱え、獣の特質をもった戦士の姿へと変わる。黒く頑丈な皮膚をそなえたアルマジロの獣人を先頭に、能力者たちは手当たり次第に辺りを破壊し始めた。

 このフロアには多くの実験器具が置かれ、昼夜研究が行われているようであった。男たちが目に付いた精密機器を殴りつけ、押し潰す。フラスコが割れ、中の薬品が散乱する。社員たちはパニックになって逃げ惑い、その場は大混乱に陥っていた。

 無駄に人的被害を出すよりもむしろ設備を損傷させ、研究に支障を出させる。これも零二の立てた作戦の一部だった。


 一方の他のメンバーは、彼らがドアから飛び出してすぐにエレベーターの扉を閉め、一気に最上階へと上昇した。段ボールと台車をエレベーターの中に置き去りにしたまま、執務室のある方向へ走り出す。

 廊下を巡回していた警備員の男二人が、侵入者たちに気づいた。威嚇するように警棒を振り上げ、こちらを睨みつける。


 対して能力者たちは素早くコマンドを唱え、白煙に包まれたのち、一斉に本来の姿へと変身した。警備員らがたじろぎ、後ずさりする。

「そこをどいてもらおうか!」

 猪の能力を宿す男が雄叫びを上げ、警備員へと突進する。茶色く厚い体毛に覆われた肉体が、砲弾のように唸りを上げて迫る。体当たりを喰らった男たちは壁に激突し、呻き声を漏らして崩れ落ちた。


「今のうちだ」

「分かってる」

 振り向いた男に、カメレオンの能力者の女は軽く頷いた。意識を集中させ、自身の皮膚を周囲の景色に同化させる。自在に姿を消すことのできる彼女は、暗殺にはまさにうってつけの人材だった。

「作戦通り、あたしがジェームズって奴を仕留める。あなたたちは退路を確保して」 

 センサーに引っかかるのを警戒して、彼らは飛び道具を持ち込んではいない。その代わり、各々が優れた力を秘めている。

 元特殊部隊の最後の作戦が、今、始動した。


 音を立てないように細心の注意を払い、ドアを開ける。中を覗き込むと、ジェームズ氏と思われる人物はガラス張りの壁から眼下の景色を眺めていた。デスクの椅子にもたれかかり、リラックスしているように見える。運よく、こちらに背を向けてくれていた。

 カメレオンの能力者は右手にロープを握り締め、慎重にターゲットに接近しようとした。ジェームズには彼女の姿が見えない。気づかれずに至近距離まで近づき、不意を突いて絞殺する。それが最も確実と思われるプランだった。足音を殺し、彼女が一歩踏み出した瞬間だった。


 予期せぬ激痛が、能力者の全身を走り抜けた。無数の不可視の刃に体を貫かれ、彼女は絶叫した。鮮血が噴き出し、意識が朦朧とする。あまりの痛みに、擬態能力の維持が困難となってしまう。無防備な姿をさらけ出し、女は膝から崩れ落ちた。

「何で……分かった」

 辛うじて紡ぎ出された言葉を聞き、ジェームズは満足そうに笑った。女の方へ向き直り、憐れむような視線を向ける。

「私は用心深い人間でね。タグを持たない者がこの部屋に入った場合、セキュリティが発動してレーザー光線が張り巡らされ、侵入者を迎撃するように設計してあるんだよ」


「タグ……?」

「これのことだ」

 ジェームズは明日の天気の話でもするような口調で、スーツの胸元に留められた名札に似たものを指差した。

「このネームタグの内側にはチップが組み込まれていて、身につけている者にセキュリティのシステムが作動しなくなる。我が社の社員は皆、これを持っている」

 つまり、社員でない者が執務室に立ち入った場合にのみ、システムが作動するというわけである。


「大掛かりな仕掛けだと思うかい? しかしね、私は何となく予感がしていたんだよ。いつか、こんな日が来るんじゃないかと」

 倒れ伏した女へつかつかと歩み寄り、ジェームズは上着の内ポケットから一丁の拳銃を取り出した。女にもはや力は残っておらず、時折血を吐き出し、悔しそうに眼に涙を溜めるばかりだった。

「君のお仲間も、すぐに排除してあげよう。それでは、さようなら。出来の悪いプロトモデル君」

 銃声が響き、弾丸は彼女の額を撃ち抜いていた。間もなく、女はこと切れた。


 アルマジロの能力者が振り上げた拳を、別の誰かの手が掴んだ。はっとして振り向くと、そこには金髪の女性が無表情で立っていた。振りほどこうとしても、予想外に強い力に阻まれる。

「侵入者を発見。排除します」

 女が小声でコマンドを発声すると、衝撃波が生じた。数歩後ずさり、男が目を細める。白い煙の向こうに現れたのは、髪の毛の一本一本を蛇に変化させた姿をもつ、異形の能力者だった。


「お前がNEXTの能力者とやらか。面白い!」

 戦闘の構えを取り、男が威勢よく啖呵を切る。手ごわい相手には違いないが、NEXTが戦力の一部をこちらに割いてくれたことはこれで確実となった。作戦の第一段階は成功した、と男は思った。あとは、上階での奇襲が上手くいっていることを祈るのみだ。

 とりあえずはこの場を凌ぎ、上に向かった仲間の時間を稼いでから撤退すればいい。そう判断し、男は実験器具の並んだテーブルをいくつも跳び越え、相手と距離を取った。逃げ隠れを繰り返し、しばらくしたら退こうと考えていた。付近にいた同志たちも、彼に倣う。


 だが、メドゥーサの強さは彼らの想像を超えていた。彼女の頭部の蛇たちが口を大きく開き、四方に酸性の液体を吐きかける。それがかかったテーブルは泡を立て、一瞬で溶けて消えてしまった。遮蔽物の陰に隠れても無意味だと思い知らされ、元特殊部隊の隊員らに戦慄が走る。

 生じた隙を逃さず、メドゥーサは息を深く吸い、一気に吐き出した。繰り出された紫色の毒霧が、今度はより広範囲へと漂っていく。禍々しい輝きを放つその攻撃を、能力者たちは躱そうとした。


 けれども、何故か体が動かなかった。四肢が硬直し、自分の意志で自由に動かせない。それがメドゥーサの魔眼を見てしまったからだということに、彼らは最期まで気づくことができなかった。

 無防備な彼らを猛毒の霧が襲い、肉体を猛烈な速さで蝕んでいく。

 数秒後には、彼らは皆力なく崩れ落ちていた。生存者などいなかった。



 銃声を聞いて、外で待機していたメンバーたちは青くなった。カメレオンの能力者の女性は、銃を携帯してなどいない。つまり、あの部屋にいる彼女以外の誰かが発砲したということだ。

「私、ちょっと見てきます」

 青い顔をした一人の女性が言い、忍び足で執務室へと向かった。彼女はサソリの能力者であり、爪から毒液を分泌する力をもつ。同じく暗殺向けの能力だと判断され、陽動ではなくこちらのチームに所属することになっていた。皆が心配そうに見守る中、サソリの能力者はそっと扉を開けた。

 彼女が部屋に足を踏み入れた直後、またしても悲鳴が響き渡った。

「皆、逃げて……」

 扉の隙間から頭だけを出し、女は喘ぐようにして言った。胸には真っ赤な染みが生じ、呼吸をするのもやっとという状態だった。

「この部屋に入っちゃ駄目!」


 続いて、部屋の中で男性が悪態を吐く声が聞こえた。そして、再び銃の引き金が引かれる。パン、と高い音がして、彼女の体ががくりと震える。心臓を一思いに撃ち抜かれ、女は既に息絶えていた。能力者たちは、恐怖の真っただ中に放り込まれることとなった。

「おい、どうするんだよ。ターゲットは生身の人間ってことなんじゃなかったのか。何でこんなに苦戦してるんだよ。もう二人もやられちまったぞ」

 猪の能力者の男が、情けない声を上げる。彼は解決策を求めるように各々を見回したが、誰も彼の問いに明確な答えを出すことはできなかった。

 ただ一つだけ確かなことがあった。自分たちの仕掛けた奇襲攻撃は、失敗に終わったのだ。


 立ちすくんでしまった彼らに、風を切り裂いて一つの影が襲いかかる。

 死角から飛び込んできた一撃に、猪の能力者は驚愕に目を見開くことくらいしかできなかった。空中を滑るように移動してきた敵は、凄まじい速度で目標に迫った。哀れな獲物は、防御姿勢をとる暇すら与えられなかった。

 勢いよく繰り出された跳び蹴りが、男の首元に命中する。骨の砕ける嫌な音がして、男は瞬時に息絶え、冷たい大理石の床に体を横たえた。音もなく着地し、ペガサスが残酷な笑みを浮かべる。


「――まずは、一匹」

 圧倒的な力量差を見せつけられ、元特殊部隊のメンバーは完全に怖気づいてしまっていた。この能力者は、自分たちとは次元が違う。そう直感的に悟っていた。

 逃げ出そうとした彼らの耳に、不思議なメロディーが流れてくる。それを聞いた途端、能力者たちの動きはぴたりと止まった。


「セイレーン、ナイスタイミングです」

 ビル中央の吹き抜け部分に、巨大な翼を広げた黒髪の女が浮かんでいる。微笑んで獲物を見下ろしている彼女に、ペガサスは笑いかけた。彼自身は事前に軽く耳栓をしているため、ダメージを受けていない。

 幻想の世界に囚われた能力者たちを、ペガサスは次々に屠っていった。首筋に鋭い回し蹴りを叩き込み、一発で息の根を止める。たちまち、彼らのほとんどが無力化された。


 しかし、ごく少数ながら、セイレーンの歌声の影響下から逃れることができた者もいた。比較的彼女と離れた位置にいて、なおかつ、強い精神力を持った者だけではあったが。

 トカゲの能力者もその一人だった。我に返るやいなや、窓ガラスを突き破って外へ飛び出した。

「馬鹿な男ですね。このビルの最上階から飛び降りれば、即死に決まっているのに」

 そうは言いつつも、ペガサスは自身も窓から飛び出して空中に静止し、外の様子を見た。念のための確認くらいの意味合いだったのだが、そこには意外な光景が広がっていた。


 手足をビルの壁面に貼り付かせたトカゲの能力者が、そろそろと地上へ下りていっている。なるほど、この能力を活かして脱出するつもりだったのかと、ペガサスは合点がいった。

 急降下して男の横に並び、首根っこをぐいと掴む。強い力でその体を持ち上げ、ペガサスはトカゲの能力者を宙づりにしてみせた。

「この野郎、離せっ」

 男は半狂乱になって喚きながら、手足をめちゃくちゃに振り回した。その度に、長い緑色の尾がゆらゆらと揺れる。残念ながら、ペガサスには全くと言っていいほど効いていなかった。


「では、望み通りにしてあげましょう」

 無造作に手を離すのと同時に、男の顔を恐怖がよぎった。次の瞬間には彼の体は駐車場のアスファルトへ激突し、見るも無惨な姿となっていた。

「第一世代の分際で私たちに刃向かうなど、愚かすぎる。……さてと、これでおそらく、全部倒し終えましたかね」

 眼下に広がる景色に目を向け、うっすらと笑みを浮かべてペガサスは独り言ちた。



 部下に命じて能力者の死体を運び出させ、血痕が残らないよう念入りに掃除をさせた後で、執務室はようやく元のありようを取り戻したと言えるだろう。

 ジェームズは何事もなかったかのようにデスクの前に座り、今回の件について様々な考えを巡らせていた。施設内で起こった騒ぎについては、彼が権力を行使さえすれば完全に隠蔽することができる。死体の処理も関係者の口止めも、彼の力をもってすれば造作もないことだった。

 それより重要なのは、誰がこの襲撃を仕向けたかだった。


(さしずめ、和泉君の仕業か。いやはや、派手にやってくれたものだね)

 だがジェームズは苦々しげに顔を歪めているのではなく、余裕に満ちた笑みを見せていた。腕を組み、頭の中で方針をまとめる。

(私に逆らったツケは、必ず払わせてあげよう)


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