入学編Ⅰ
小説書き始めてです。毎日投稿するから頼むから読んで面白ければで良いから広めてくれ。評価も1でも良いから頼む。
「目を覚ます事とは背けたい現実を自らに強制する、そういう行為なのかも知れない。と、私は最近そう思い始めたのであるがーーー」
老いぼれた、と言っては少し失礼に当たるだろうか。長い白髪にヨボヨボの顔。シワなのかそれとも目なのか、それすらの区別すら付かない。
ただ一つ言えるのは彼の経験からなのか、現代日本における圧倒的なまでの科学技術の飛躍による哲学的思考の放棄故か、その言葉はあまりにも重く感じてしまう。それが錯覚である事を願うばかりだ。
ただ彼にとって、否一般的な若者にとってその言葉を聞くことは退屈でしかない。ただそれはその言葉が指す事柄ではなく、無駄に難しい表現を多用した老人たちの文体の所為である。
その為、
「先生っ、それってつまりどう言う事なんですか?」
青年、石垣凌我は質問をする事を厭わなかった。
「また君かね…………」
教壇に立つ先程の白髪の老人も呆れたと言わんばかりにため息をつく。
「石垣、お前は何度質問を繰り返したら気が済むんだ?」
「そんなの分かるまでに決まってますよ」
そんな老人からの質問に対し石垣はノータイムで答えを返す。そこに心の揺らぎの一切はない。
「はぁ……まあ良い、じゃあ良く聞きたまえ」
そして何や感や言いながら老人は石垣に対し彼のためだけの説明を、講義を始める。ここまでがいつもの流れであった。
「そんな難しい言葉ばっかり使われても僕には分かりませんっ‼︎」
「全くお前と言う奴は……分からないことをなんでそう威張れる」
「だって分からないないんですもん。分からないことを分からないままで居るのが僕は一番嫌ですっ!」
「はぁ…………」
老人は深いため息をこぼしながらも、心の中では嬉しいかった。彼だけがある意味本気で私の授業を聞きに来ている、理解しようと努力している、そう思えたからだ。
(ただ性格がなぁ……馬鹿正直というか何と言うか……)
だがそれでもやはり老人は石垣のことを気に掛けずにはいられなかった。
「まぁ簡単に言えば」
「言えば?」
石垣の食い気味なまでの揚げ足取りにに苦笑いしながらも、老人ーー青蓮寺 隆三は優しく告げる。
「生きるのは大変だって事だよ、石垣」
今年は2000一体何年だろうか? いや、もしかしたら既に3000年代にすら突入しているのかも知れない。どっちにしろ西暦という概念の消失した現代では考えるに値しない戯言に過ぎない。
だからと言って結局その基準は各々に依存する。
「今日は西暦3790年。旧暦でいうところの4月となりました」
男は一人手を合わせながら口ずさんだ。目の前には一枚の写真。相当古いのであろうか、それはもう擦り切れに擦り切れている。
「貴方が散ったあの日からもう590年。ですがようやく私はあの頃の貴方に追いついた」
胸元に煌く勲章だろうか? 光り輝くバッチに目をやりながら深く息を吸う。
そして一言、
「そして今日からーーーーーーー」
旧暦上の4月。現在の表記方法で言うところの天暦985年4月1日。日本は暖かい季節を迎えていた。
もう領土の殆どを失ってしまったが発芽し始めた木々、溶け出した山脈の雪、そして何より美しいピンク色が特徴的な桜、そのどれもがいまだに美しい日本の景色を保存している。
そんな季節の、一年の始まりである今日また人々の営みも新しさを迎えようとしていた。そしてそれは学生も例外ではなかった。
「今日からとうとう私も……」
1人の少女ーと言っても歳は16.7程の可憐なレディーであるーは目を爛々に輝かせながらその看板を見ていた。
『入学式展』
そう書かれた入学式がこれから彼女が入学する学校のものである事は言わずとも良いだろう。
「お父様、見てくれてますか?」
そう蒼天を仰ぐ。
「私はとうとうここまで来ました、そして今から始まるます。私の夢が。ねぇ、ちゃんと見ていてくれてますか?」
虹彩が織りなす光の円環はまるで実際に彼女の父が遙か遠くから此方を覗いている様に見える。
それが嘘か真かは今は問題ではない。何せこれは彼女の彼女自身の為の誓い、契りなのだから。
そう夢中になっていられるのも束の間。ふと左手に嵌めた腕時計に目を落とす。
「8時……45分!?」
そして反対の手で持つしおりを今度を見る。そこに記されている式の開会時刻は8時50分。
「ま、まずいっ、急がないとっ!」
そう言いながら大慌てで彼女は足を踏み入れた。遥かに広く、遥かに狭き門の中へと。
これは彼女が門へと走り入る数時間前のこと。
「ではこれから職員集会を始めます」
黒いスーツを着た強面の男性がそう告げる。スーツが張り裂けんとするばかりの筋肉質な彼ご居るのは日本高等学院職員室である。
「では先ずは私が自己紹介をさせていただく」
ピチッそんな音が鳴る程の力で左手を体に沿わせ、右手を左胸の、心臓の前へと強く打ち付ける。
「防衛軍第一部隊所属、春樹 厳正。今回ここの校長として配属された」
胸元に光るエンブレム、人が何かに抵抗しているシルエットのそれが防衛軍の証だろう。
その後も各教師達が自己紹介を続けていく。当然のことの様に水瀬揃いに揃って発言時の体勢は胸元に手を置いたそれだ。
そして、
「では次、一年三組石垣っ!」
校長の張りのいい声が石垣の体をほぼ無意識の内に動かす。
「はっ! 此方に配属された1年3組担任石垣 凌我でありますっ!」
彼も当然指先の先まで神経を張り巡らせ敬礼の体制を取る。決して胸に手を当てたりはしない。
「貴っーー」
「貴様」だろうか? 厳正は何かを言いかけ、そして直ぐに口をつぐんだ。周りの教師陣の間にも少しざわめきが生じる。だが一言、
「止めてしまってすまない、では次っ!」
それだけで当たりは静まりかえり、そして再び残りの教師たちによる発言が再開される。当然皆胸に手を当てながら。
教師集会が終わり、担任を受け持った教師は各々の教室へ生徒より少し早く自らの配属教室へと到着していた。勿論石垣も例外ではない。
教卓に手を置きながら少し教師気分にでも浸ってみる。
請い教えて貰う立場から請われ教える立場へ。それはそこまで無邪気さを残していない石垣でも何も感じずにはいられない。
「と言っても、そんな事を言える状況ではないんだgーー」
「えーと…………」
ふと、ではなくガッチリと其処では視線が交錯していた。
教卓で一人黄昏れる男教師とポカンと口を開けて扉の前から膠着している女生徒。人によっては修羅場と呼んでも過言ではないだろう。それも相手が少なくともこれから3年間は同じ教室で過ごすのだから。
「……なんだお前? 入学式会場は表の筈だが?」
「知ってます」
石垣の質問に彼女はノータイムで答えた。お世辞にもイケメンと言えるわけではない石垣と、紅色の髪に不思議な雰囲気を放つ女生徒。それはただの教室ではないにしろ、些か不自然さを感じる光景だ。
「じゃあこんな所で何してんだ?」
「何だと思います?」
何なんだコイツ……。
「さぁな、分かんないから聞いてんだよ」
「本当ですか? 考えてすらない様に見えますけど……」
「ぐっ……やけに舌が回る奴だな、人にものを聞く態度ってものは習わなかったのか?」
彼女にとってこの質問だけは少し違う印象を与えてしまったらしい。彼女はノータイムで答えることなく、「はぁ……」とため息をつきながら首を振り手を広げて見せる。
そして先程とは打って変わって真剣な表情で聞いてきた。
「それ本気で言ってるんですか?」
それが何を意味するのか、何が聞きたいのか。石垣には直ぐには分からなかった、だが返答に時間的猶予はないに等しい。これがテストの問題であれば時間をかけて最適解を見つけ出すべきだろうが、こと対人会話においては如何に早く相手にとっての及第点に届く返答ができるかの方が求めらる。
「それって一体何を指してるんだ? そんな婉曲表現が通じるのは遥か昔の教師だけだぞ」
でも本当に何が聞きたいんだろうか?
先ずコイツは一体誰だ?
俺と何かしらの関係があるのか?
いくつもの疑問が絶え間なく浮かんでくるが、そのどれも答えは彼ではなく対峙する彼女の中にあるのだろう。
「そんなこと知りませんし、興味も無いです。それよりも貴方のお名前、聞いてもいいですか?」
「名前か? なら石垣凌我。今日からこのクラスの担任だ」
「えっ、ウソっ……………………」
彼女は口を押さえ目を見開く。開かれた瞳孔からは彼女が本気で驚いていることが伝わってくる。
「嘘?」
「い、いえっ。何でもないです。それよりも」
彼女はノールックでドアの鍵を閉め。制服のボタンの一番上から計3つに手を掛ける。そして、
「ねぇ先生……」
16歳の女子にしては立派に育った体を見せつける様にボタンを弾き歩み寄る。出るとこは出て締まるところはしまっている、所謂ボンッキュッボンを体現した肉体は扇情的で16歳の子に見せるには憚られるほどだ。
そして教卓の直ぐ側でトドメの一言を放った。
「私とオ イ タしちゃいませんか?」