第六話 魔法少女マナ
マミは現在、車を出来る限り飛ばし、自宅へと向かっていた。
彼女が手に入れたツーに関する情報、それは彼女がJ地区のとある研究施設で創られた存在であるという事であった。J地区の警察たちはここ最近、一つの魔法研究施設を壊滅させていた。その研究所は非人道的な実験や研究を行っており、ツーはそこで創られた少女であった。
何故そんなことが分かるのか、それはその壊滅させた研究所には彼女に関するデータが残っていたからだ。
生物兵器、サンプルナンバー2号。通称『ツー』
それが、彼女の正体であった。
十中八九、彼女はそこから逃げ出したのだろう。
しかし、この件にはまだ問題が残っていた。その研究所の創立者、貪用カネと言う男が逃げ出し、未だに消息がつかめていないのだ。
マミはもしやこの男がツーを狙っている可能性があると思い、すぐに彼女の元へと向かった。
そして、その予感は的中していた。
「その子から離れて!!」
「あぁ?」
空き地に現れたのは一人の少女、睡無マナであった。
突然現れた小さな訪問者に怪訝な表情をするカネ。ツーは何故来たのかと戸惑いの色が表情には浮かんでいた。
マナは裸足で痛む足を構わずツーの元まで走って来たのだ。この時、彼女は気付いていなかった。何故ツーがここに居るか分かったのか。彼女は直感の類だと思っているが、そうではない。
マナはこの時、無意識にツーの放っていた魔力を探知して来たのだ。
そして、少しでも速く走ろうと、脚にも無意識に魔力を纏わせていた。
彼女は自覚が無いだろうが、無意識に魔法の力を使用した彼女は中々に才能が有るといえるだろう。しかし、カネはそれには気付かず、目の前の少女がどこにでも居る一般人の類と決めつけていた。何しろ本人ですら魔法を使役した自覚が無いのだから・・・・・。
「なんだお嬢ちゃん、何の用だ?今は取り込み中なんだが」
「そ、その子から、ツーちゃんから離れて!!」
「はぁ・・・そうか、お前さてはコイツが隠れ家に使っていたあの家の娘か」
「マナ、逃げて!!」
ツーはマナを逃がす為、カネの前に立ちはだかり魔力を解放する。
だが――――
「フン!」
「くぅ・・・あぁ・・・・」
カネがツーに手を向けると、ツーの魔力が一瞬でかき消される。
そして、彼女は苦悶し始めた。
「馬鹿め、お前は俺に逆らえない様に作られている事を忘れたか。お前を生み出したのはこの俺だぞ」
「ぐ、うう・・・・」
「お前の魔力、その力は俺の制御下にある。俺が相手ではお前はまともに魔法を使役する事は出来ない」
「ツーちゃん!!」
魔力を押さえつけられ、苦しむツーの元へ駆け寄るマナ。
カネはこちらへと近づいて来るマナに向かい手をかざす。
「そらっ」
マナの足元に魔力の塊である弾丸、魔力弾を撃ち込む。
「きゃあっ!」
足元の地面が爆ぜ、その場で転んでしまうマナ。
カネは空き地の周囲に特殊な結界を貼り、一切の音を遮断した。
「さて、可哀想だがキミにはここで死んでもらおうか」
「!?、だめ!!」
ツーはカネの腰部分に抱き着き止めようと奮闘する。
カネはそんなツーの行動にさらに怒りを高め、ツーの頬を張る。それでも離れようとしないツーに我慢の限界が来てしまい、彼女の頬を握りこぶしで殴りつけようとする。
「!!!!」
その光景を見てマナの目が見開かれる。
またツーちゃんが殴られる。自分と同じ小さな女の子が殴られる。
嫌だ・・・もう彼女を傷つけないで!
その子は私の・・・・大切な友達なんだ!!
「やめてよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
彼女はカネの行為を止める為、大声を張り上げた!
そして・・・次の瞬間、マナの体から膨大な量の魔力が解き放たれた・・・・。
「な・・・」
カネはツーに振り下ろそうとしていた拳を止め、マナの事を見ていた。
小さな魔力を持っているだけで、他には特別視するところなど一切ないと思っていた目の前の少女から凄まじい量の魔力が噴出し始めたのだ。
そして、彼女から感じる魔力の質が変わった。
魔法使い、いや、人間は自らの体内に特殊な魔力を秘めている。そして、その魔力を解放した者は〝個性使い〟と呼ばれるのだ。
そして、今、目の前の少女から感じる魔力の質は紛れもない――――
「そんな・・・ばかな・・・」
個性使いの持つ魔力の質であったのだ。
すると、マナの体に変化が表れる。
彼女の着ている洋服が光輝き出し、変化を始める。
彼女の上半身は胸元にピンク色の花型のブローチが付けられ、それに合わせて薄いピンク色に白色が彩られた服装となり、下半身は白色のフリルのスカートとなった。
そして、髪型はショートヘア―であった彼女の髪が伸び、頭の左右で束ねたツインテールとなっていた。
さらに、彼女の手には先端部分が星形の一本のステッキがいつの間にか握られていた。
「え?・・・これって」
マナは自分の今の恰好を見て驚く。
その姿は・・・自分がよく頭の中でイメージしていた魔法少女の姿そのものだったのだ。